◉法人オーナーの事業承継の方法と問題点


事業承継をする場合には、①株式を後継者に集中させること(少なくとも発行済株式数の51%以上を後継者に保有してもらうこと。なお、発行済株式数は登記事項証明書で確認が取れます)と②事業用財産(工場や自社ビルなど)を後継者に集中させることが必要となります。株式の集中化は経営権を把握するため、事業用財産の集中化は実際に事業を行うために必要となります。

しかし、ここで、民法の遺留分という制度が株式と事業用財産の集中化を阻害する可能性があります。
遺留分という制度は、民法第1028条以下に規定されている制度で、大まかにいますと、配偶者や子息などに最低限度の遺産を承継する権利を保障する制度です。例えば、配偶者であれば遺産の4分の1は必ず保障されるのが民法の原則となっています。この遺留分制度は、相続人の生活を保障することを目的として作られている制度です。
そのため、株式の全てを後継者に贈与したとしても、遺留分を侵害している場合、相続人から遺留分侵害の限度で贈与を取り消されてしまい、事業承継がうまくいかない可能性があるのです(遺留分の主張を配偶者や子息がされるはずがないという相続に関する問題もありますが、ここでは文字数の関係から割愛します)。

これが遺留分制度と事業承継に関する法務手続き上の問題となります。つまり、後継者としてふさわしい人材を選定し、育てられたとしても会社の経営権を握れないのでは、言い方は良くないですが、法人オーナーとはいえない「雇われ社長」に過ぎず、自由な経営を行うことが難しくなります。
(とりわけ、人事などで経営刷新を考えるときには持ち株数の関係から、かえって「返り討ち」に遭ってしまう可能性すらあります。)


◉経営承継円滑化法による遺留分に関する特例制度


この民法の制度自身は、法人オーナーの方だけではなく広く日本全国の相続のケースに利用される制度であるため、廃止や改正をすることはできません。そこで、会社の事業承継の際に遺留分が問題とならないように特別な法律が作られました。それが経営承継円滑化法です。この経営承継円滑化法は平成20年に作られたとても新しい法律です。

経営承継円滑化法では、事業承継の場合に限っての「遺留分に関する特例」が認められ、遺留分に関する民法の制度の適用除外などを認めています。ここでは名前の指摘のみにとどめますが、除外合意、固定合意という特別な合意をし、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得ることで、遺留分に関する民法の制度による事業承継の妨げが起こらないように配慮がされています。
(利用方法によっては事業後継者のインセンティブを高めることも期待できる制度設計となっています。)

そのため、事業承継の際には、経営承継円滑化法の利用を検討することをおすすめします。

事業承継関連の話題で、法人オーナー様が一番お解りくださっていることと存じますが、ノウハウやのれん、雇用市場を創り出すことなどは一朝一夕には絶対に出来ることではないということです。生涯をかけてできることです。このような「資産」は法人オーナー様の生きた証としても、次世代の日本のためにも是非とも承継させて欲しいというのが社会や経産省などの想いとなっています。
折を見て是非とも事業承継の手続きを考えて頂ければと存じます。

行政書士 S.K

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