年末一旦終息したかに見えた原油価格は年明け以降も下げが止まらず2015年が本格的に始動し始めた1月5日のNY市場ではWTI先物の原油価格が5年8ヶ月ぶりに1バレル50ドルの節目を割る状況となり、さらに下値を模索する状況となっている。これにより日銀が当初の量的金融緩和で目指した2年で物価上昇率2%という目標達成がかなり遠のく状況に陥ってきている。
昨年10月末、米国FRBのテーパリング終了直後に市場の意表をつく形で実施を発表した日銀の追加量的緩和は確かに世界的に大きなインパクトをもたらすこととなり、日経平均株価もドル円の為替相場も市場予想をはるかに超える形で大きく上昇することとなった。元財務省の財務官であった黒田氏がもっとも効果的なタイミングでの政策発表についてマーケットの情報を集めながら相当練った上で実施した巧妙な策であったことは間違いないが、同じタイミングで原油価格が大きく下がりだしたことから、エネルギー価格を含めたCPIで政策決定をしている日銀にとっては予想外のインフレ低下要因に直面したのだろう。市場では果たして日銀によるさらなる追加緩和QE3が実施されるのかどうかに大きな注目が集まっている。
知名度は高いものの内容は単なる金融抑圧に過ぎない「アベノミクス」
2012年後半に個人がブログでその名称を使った直後に日経新聞が追随して使い始め、急激に知名度を高めることになったアベノミクスと呼ばれる経済政策だが、名称だけが一人歩きしているものの、実は3本の矢といわれた政策の中身でまともに実行されたのは日銀の量的金融緩和だけで今日に至っている。この量的金融緩和は典型的な金融抑圧であり、政府が本格的な財政再建を一切行わないまま、債券や通貨の価格形成に直接もしくは間接的に介入することだけによりその需要を変えようとするもので、現実問題として実態経済と株価の相関性は既に崩壊し官製相場と呼ばれる不自然な高値相場だけが継続し続けている。
日経平均の株高状態の示現は、円安を利用した企業業績そのもののバブル化に他ならず、円安状況でも必ずしも輸出企業の販売が改善し輸出量が改善する状況にない中にあって、海外現地法人からレパトリで戻ってくる利益だけは円換算すると帳簿上は大幅に嵩上げされ、確かに上場企業の資金調達と内部留保金に大きなプラスの影響を与えることとなっている。しかし同様に円安だけをもってしてインフレを呼び起こすことに関しては、既に円安による物価押し上げが一巡した上、原油価格の大幅下落が大きな足かせになってきており、2年で2%のインフレ率達成はもはや絶望的な状況に陥りつつある。
QE3をやらざるを得ない状況が切迫
都合2回の量的緩和を行ったにも関わらず、原油価格大幅下落により国内のコアCPIが低下し、デフレに逆戻りする可能性がでてきている。このまま原油価格が1バレル20ドル台を試しに行くようなことがあれば3月位にはCPIがマイナスに陥ることも十分考えられる状況となってきているのだ。日銀の当初予定では向こう1年間ぐらいは様子を見るつもりだったのだろうが、市場の期待インフレ率をとどめるためにも緩和を続けなくてはならない状況に迫られていることは間違いない。
長期停滞論を唱える米国の前財務長官であるローレンス・サマーズは「バブルがないと経済はマイナスの自然利子率に陥ってしまう」と発言し、バブル容認論を打ち出しているが、日銀のやり口も完全にこれに追随するものであり、一旦量的緩和をやりだしたら続けざるを得ないのが現状となっている。早ければ今年の4月、もしくは7月にはQE2の実施を迫られる可能性は極めて高いといえる。また安倍政権が2016年7月参院選の大勝を狙う動きから景気=株価上昇とインフレ率の押し上げが日銀にとっても急務となる可能性は高く、追加緩和はすでに確定的との見方も根強い。