1月30日、厚生労働省は公的年金の支給額の伸びについて、賃金や物価の上昇分よりも抑えるマクロ経済スライドへ変更する旨を、決定から8年遅れでいよいよスタートさせることを発表している。これにより2014年4月からの年金受給額は微増に留まる見通しとなったが、問題の本質は依然解決していない状況だ。


そもそもマクロ経済スライドの仕組みとは?

「マクロ経済スライド」いよいよ適用 それでも解決しない本質的な年金問題

厚生労働省の公式ホームページによると、マクロ経済スライドとはそのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組を指す。ただ、この制度は2004年の年金制度改正で導入されてはいたものの、2015年まで一度も適用にはなっていない。理由はデフレの影響によるもので、結局のところ実行が先延ばしで現在にまでずれ込んでいた。加入者が減少し受給者が増加することによる影響を、年金額の減額調整だけで乗り切ろうとするこの制度で果たして年金問題は解決できるのかが大きな焦点だ。


マクロ経済スライドには制約条件が課されている

国が発表した2009年における財政検証の結果では、2012年から2038年までの26年間にマクロ経済スライドが実施される予定とされていた。予想切り下げ率は公的年金被保険者数の減少率と平均寿命の延びを加味して0.9%に想定し、13年間の継続減額で11%程度のカットを見込んでいた。

しかし実際にはデフレ状況で発動できないまま、制度設定から8年間見送られ続けてきたのである。というのも、賃金や物価の上昇率がある程度以上の値になる場合にはそのまま適用するが、適用すると年金名目額が下がってしまう場合には、年金額の伸びがゼロになるまでの調整にとどめていたからである。この条件では賃金や物価の下落に応じて年金を減額することは可能だがそれ以上に年金額を下げることはできない。したがって賃金上昇率と物価上昇率が0%の場合には年金は2009年の想定どおり0.9%の引下げはせず、0%にとどめることになってしまう。


マクロ経済スライドができないと既裁定年金の所得代替率を下げられない

これまでスライドが実行されなかったため既存の年金需給者の所得代替率は2014年現在で62.7%に上昇している。ある意味で現在の受給者はかなり得をしてきた格好になっている。この状況では受給年齢に達した対象者は働き続けることよりも労働をやめて年金を全額受給する人が増えることが予想されており、実は財政検証で想定されている数字より給付実額が増加する可能性が高くなっている。そのため、2015年から物価動向に係わらず、マクロ経済スライドを実施し、名目で減額になる場合であっても毎年0.9%分を削減する方針に踏み切ったというわけだ。