◉属人的株式が認められる理由


株主平等原則にもかかわらず、属人的株式が認められるのは、会社の株式を公開していないためです。株式を公開した場合は、投資家という利害関係人が生じるため、株主ごとの特別扱いは株主平等原則の趣旨から認めることができません。
しかし、株式を公開していない場合であれば、このような利害関係人が生じる可能性は極めて低いということになります(非上場の株式を第三者が買い取る機会はほとんどないことは、ご経験からお分かりいただけることと存じます)。

また、実際上の理由としても、株式を公開していない会社の多くは、オーナー経営者様の会社が多く、経営者様の個人的な経営手腕で会社の経営が成り立っている面が大きいということができます。この場合、経営をフレキシブルに行うためにも、株主平等原則の例外を認めることが重要となるということが理由としてあります。

このように属人的株式は、株主平等原則の例外として株式を公開していない会社において認められることとなります。


◉属人的株式の利用例としてヒーロー株


属人的株式の使用方法としては上で述べましたような、議決権を経営者様に集中させる方法が典型的な活用法ですが、ユニークな名前で呼ばれる属人的株式としてヒーロー株と呼ばれるものがあります。

ヒーロー株とは、経営者様に万が一のことがあった場合に備えて発行する属人的株式です。
これは、次のような使い方をします。例えば、(縁起が悪く恐縮ですが)経営者様が突然お倒れになってしまったとします。この場合、会社経営は舵取りがいなくなってしまうので、日々の取引から始まり、経営の方針(存続や解散も含めて)まで急に問題となることになります。
このような場合に社内の混乱を生じさせないため、以下のような定款の定めを設けておきます。つまり、「当社の社長が不慮の事故その他の事由で不在になったときには、税理士●●は1000個の議決権を有する」という定めを設けて、その株式を税理士に割り当てておくという方法です。

割当先は税理士である必要はありません。経営者様が信頼できる方(例えば後継者が決まっているのであれば後継者が良いでしょう。この場合には事業承継の問題も絡んできますので、今回はどの業種の経営者様とも一般的に繋がりが深い税理士を例として挙げました)であれば、誰でも良いのです。
このような割り当てを行っておくことで、不測の事態の場合に多数の議決権を持って会社の舵取りをしてくれることになります。いざという時に現れてくれるのでヒーロー株といいます。例えば、信頼できる税理士であれば、収支のバランスなどを考え、継続や解散など的確な方針を示してくれる可能性が高いと言えるでしょう。

このように属人的株式は議決権を集中させて、経営を安定化させたり、不測の事態に備えるなど多様な使い方をすることができます。


◉属人的株式の導入の手続き


属人的株式の導入は、事実上、株主全員に近い同意がないと新規導入することはできません。この点は株主平等原則の例外として厳しくなっています。具体的には、株主の頭数の半数以上かつ議決権の4分の3以上の賛成が必要です。
社内で経営の安定化や不測事態に備えるなどのニーズを感じておられる場合には、属人的株式の導入について、税理士や行政書士、司法書士など身近な専門家に相談されることがおすすめできます。

BY S.K

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