企業活動の強さを表す指標として企業の貯蓄率に特に注目してきた。企業活動の弱さが、内需低迷やデフレの長期化の原因になっていると考えるからだ。

企業は資金調達をして事業を行う主体であるので、マクロ経済での貯蓄率は必ずマイナスであるはずだ。

しかし、日本の場合、金融危機のあった1998年から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力が、内需低迷やデフレの長期化の原因になっていると考えられる。

プラスの企業貯蓄率は、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を破壊する力になってしまっている。

企業貯蓄率がプラスであるということは、ネットの金融負債(株式・出資金を除く金融負債から金融資産を引いたもの)が減少していることを意味する。

企業のネットの金融負債は1998年にGDP対比75.7%あった。しかし、2012年にはネットの金融負債は消滅してしまい、2014年にはネットの金融負債はGDP対比-27.6%、即ち企業がネットの金融資産を持つようになってしまっている。

フローばかりでなく、ストックでも、企業のネットの資金需要が消滅してしまっている。言い換えれば、日本経済では、政府がフローばかりではなくストックでも独占的な借り手になっていることを意味する。

独占者の価格決定力は強く、財政収支の赤字は大きくても、国債の金利が低位で安定できることになる。

政府が独占的な借り手の状況で、政府の負債残高の大きさだけで財政事情を議論しても意味はない。

まして、企業が平常通り借り手で資金を政府と取り合うことになる他国と、状況が全く異なる日本の政府の負債残高の水準を単純に比較しても意味はない。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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