新成長戦略で「ROE」の向上が、企業の至上命題に

以前から海外の投資家などを中心に、日本企業のROEは欧米などの企業に比べて低いといわれてきた。これまで何度も俎上に上がりながら、日本の株式市場では重要視されてこなかった投資指標「ROE」──。

しかし、「日本企業の稼ぐ力を向上させる」として、2014年6月に閣議決定された新成長戦略(「日本再興戦略」改訂2014)は、株式市場に大きなインパクトを与えた。成長戦略の一つとして、ROEの国際的な水準への引き上げを打ち出したからである。

経済産業省では、2013年7月から企業と投資家の対話を深める新たなプロジェクトとして、「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」(座長:伊藤邦雄一橋大学大学院商学研究科教授)を開始。2014年8月にその報告書である「伊藤レポート」を公表した。同レポートでは企業に最低8%のROEを目指すよう求めている。

「伊藤レポート」によると、2012年の日本の金融・不動産を除く製造業、非製造業の売上高利益率が3・8%であるのに対して、米国は10・5%、欧州は8・9%と利益率の高さが目立っている。また、ROEでは日本が5・3%にとどまる一方、米国は22・6%、欧州は15・0%と倍以上高くなっている。

同レポートでは、差別化やポジショニング、事業ポートフォリオの最適化、リスク・変化への対応が十分ではなく、過度な低価格競争を余儀なくされていることが、その要因として挙げられている。

さらに、現預金等さがROE水準を引き下げている面もあると指摘している。また、「平成26年度生命保険協会調査」では、平均ROEは向上したものの、個別企業のROE水準にばらつきが見られ、6%未満の企業が最も多くなっていると指摘している。

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「GPIF」の方針変更と「JPX日経400」採用

もちろん、政府の政策だけで日本企業の体質が変わるのであれば、これまでにも何度も変わってきたことだろう。しかし、今回は違った。世最大の機関投資家で、公的年金積立金の7割にあたる厚生年金保険・国民年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革に着手したのである。GPIFの運用資産は137兆円(2014年12月末時点)にも上る。

GPIF改革の流れは2013年から始まった。政府は同年6月に「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」を設置。同年11月、GPIFについて具体的な運用改革の工程表を提示した。新たな運用対象を追加検討すべきことが運用対象の多様化として挙げられ、それを実行するリスク管理体制や意思決定を行うファンドのガバナンスの整備が不可欠であると提言。

これに対してGPIFの具体的な検討が2014年から開始され、同年4月には国内株式のパッシブ運用のベンチマーク(運用指標)に、JPX日経インデックス400など3つの指数を新たに採用し、運用を始めたと発表。「JPX日経インデックス400」とは2014年1月から公表が始まった株価指数で、ROEが高い企業を対象としているのが特徴だ。

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東証(1部・2部・マザーズ・JASDAQ)に上場している銘柄のなかから、過去3年間で連続赤字や債務超過の状態にあるなどの企業を除き、売買代金と時価総額を踏まえて上位の1000銘柄を組み入れ候補銘柄として選定。その中から、企業の資本効率を示すROE(3年間平均)、営業利益(3年間累積)、基準日時点における時価総額の3つの指標を基とした定量的な指標を評点として、400銘柄を選定している。

また、GPIFは同年10月31日、基本ポートフォリオの変更を発表。国内債券の比率を60%から35%へと引き下げ、国内株式および外国株式の比率をそれぞれ12%から25%に引き上げた。

さらに、今年4月2日に発表された「平成27年度計画」では、運用手法を見直し、日経平均株価などの市場平均を上回る運用を目指す「アクティブ運用」を増やす方針を示した。

これまでは日経平均株価などの指数に連動する「パッシブ運用」が中心であったが、「原則として、パッシブ運用とアクティブ運用を併用」して運用利回りを高める方針を取る。また、中期計画(第3期)では、株式運用で環境・社会・企業統治への取り組みが優れた企業に投資する「ESG投資」の検討も盛りこまれている。

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