今日は読者のみなさまにとって多分なじみが薄いと思われますが、実はよくできている転換社債(以下:CB)という金融商品を知っていただこうと思います。

多くの人の本音はたぶん、「投資に興味はあるけれど、損はしたくない」

多くの人の本音はたぶん、「投資に興味はあるけど、損は嫌なのよね」だと思うのです。みなさん手元にあるお金は有効に使いたいものでしょうから、当然だと思います。とはいえ、投資の世界は損することがあるからこそ、利益が出ることがあるものです。ハイリスク・ハイリターンという言葉を読者のみなさまも一度ぐらいは聞いたことがあると思います。これはリスク、つまり損が大きいものほど、リターン、つまり利益も大きいことを意味していて、逆にリスクが低ければリターンも低いものなのです。

どうしても損をしたくなければ円の銀行預金等が一番いいわけですが、みなさまよくご存じのように現在の円金利はスズメの涙程度ですから、リターンに相当する利息も少ないローリスク・ローリターン商品なわけですね。

結論から先に申し上げると、この記事のテーマであるCBはミドルリスク・ミドルリターンに相当するものだと筆者は考えています。

CB(転換社債)は株式の性格を持った社債

改めてCBがどんなものなのかに触れておきましょう。

CBはConvertible Bondの略で、日本語では新株予約権付社債と呼ばれます。債券として発行されるのですが、CBを保有している投資家が新株予約権を行使すると、あらかじめ決められた価格(転換価格)で株式に換えることができます。もちろん債券ですので、株式に転換せずに保有し続けることも可能です。債券ですから期限が来たら発行会社は投資家にお金を返さなければいけない(償還と呼ばれる)義務を負います。

具体例を用いてCBの性格を確認しましょう。
上場企業であるA社が発行価格(額面という)100万円のCBを103万円で投資家に販売したとします。近年のCBは額面より販売価格の方が高くなる傾向が多いので、この例でも近年の傾向にならいました。このCBの株式への転換価格を1,000円とします。償還までの期間を5年、クーポンはなし、CB発行時のA社の株価を850円としましょう。

この例で投資家が当初払う金額は103万円です。5年後の償還まで保有し続けると投資家には100万円が戻ります。つまり5年間で3万円の損です。

一方、A社の株価は日々変換します。CBの発行当初850円だったA社の株価が、2年後に1,200円になったとします。このタイミングで投資家は新株予約権を行使し、100万円/1000円=1000株を得て、この1000株を株式市場で売却すれば(1200円-1000円)×1000株=20万円の利益を得られます(*1)。

つまり、保有している間、株式に転換する魅力がないのであればそのまま保有することで事実上損がほぼ固定され、利益は株価次第で増えるという性格をもったものがCBなのです。

(*1)実際はこの利益額から取引手数料や譲渡所得税等が差し引かれます。

CB(転換社債)はなぜミドルリスク・ミドルリターンなのか

さて、A社の事例では損は5年間で最大3万円とそれほど大きくなかったわけですが、それでもミドルリスク・ミドルリターンと呼ぶのにはわけがあります。

一つ目は、あくまでも社債なので、投資家はCBを保有することで発行会社の経営破たん等のリスクを抱えることになります。先ほどの例ではA社が倒産したら100万円が手元に戻ってくる保障がありません。ゼロになってしまう可能性もあります。

また、CB発行が発表されると、発行会社の株価はしばしの間下落することが多いです。これはCBが株式に転換された場合、発行会社の発行済株式数が増え、会社全体の利益をシェアする株式の数が増えるため、1株当たりの価値が下がることが原因です(価値の希薄化と呼ばれます)。しかしながら、CB発行発表時に発表した転換価格は変わりませんから、株価と転換価格の価格差が大きくなりがちです。A社の事例でいうと発行時の株価が750円とか700円になることもあるので、1000円を超えるまでのハードルが高くなることから、多くの利益を得るためのハードルが高くなるのです。

また、発行後CB自体の価格が変動します。CBは債券といえど、株式の性格を持っていますから、発行会社の株価次第で価格が変化しますし、世の中の金利の影響も受けます。