大手不動産サービス会社のCBREによると、東京都心5区に立地するホテルの平均期待利回りは5.30%(2015年4月調査結果、2014年4月は6.15%)と一年間で▲85ベーシスポイントの急激な低下となった(図表3)。
現在、ジャパン・ホテルリート投資法人などのJ-REITや外資系ファンド、ホテル事業会社に加え、住宅系不動産会社など様々なプレイヤーが参入しホテルの取得競争が激化しているようだ。
全国でホテル不足は深刻化しているが、ここ数年で3~4割上昇したという建築コストの増加(ii)から新規の開発はなかなか進展してこなかった。宿泊業の建築着工戸数は低水準での横ばいが続いている。しかし、ここにきて稼働率および客室単価の上昇(収益改善)に対応して、ホテル計画が増加しはじめた。
オータパブリケーションによると、2015年から2018年までのホテル新設・増設計画は全国で23,128室あり、これは半年前の調査から+3,722室の増加となった(iii)。このうち東京都内では8,769室と全国の37.9%に相当する新・増設が計画されている。
現在、増加する都市部の宿泊需要の重要な受け皿となっているのが、ホステルやカプセルホテルなどの簡易宿所だ。旅館の廃業によりホテルと旅館の合計客室数が過去20年間、横ばいで推移する一方、ホステル等は毎年約500軒の増加を続けている(図表4)。
ホステルの増加は宿泊料金が安いという旅行者側の要望に加え、供給側にとっても築古のオフィスなどからのコンバージョン(用途変更)先としてのメリットが大きい。オフィスとしては立地が悪くても、ホステルであれば十分競争力のある立地は多く、短い修繕期間・安い修繕コストでコンバージョンできる。大手不動産会社などの進出もあり、今後もホステルの増加が続くと考えられる。
人口減少が本格化する中で、ホテル事業はこれまで以上に有力な投資先となっている。今後、ホテルやホステルの増加に加え、政府の規制緩和によりサービスアパートメントや民泊も宿泊施設として供給が拡大する可能性が高く、規制緩和の動向を注視する必要がある。
当面、ホテル不足が続く状況に変化はないと思われるが、2020年以降を見据え、訪日外国人リピーター増加のために、さらなる日本の魅力作りを着実に実行することが重要と思われる。
(i)「老舗ホテル、客室価格上げ、改装で外資に対抗、オークラ、1泊平均4万円、帝国ホテル、専用案内人配置」日本経済新聞2015年8月1日朝刊
(ii)沢柳知彦「主要都市でホテル不足が深刻化」エコノミスト2015.6.2
(iii)オータパブリケーション「週刊ホテルレストラン」2015.6.5
竹内一雅
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
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