海外の事例はどうなっているか

こうした動きに対して、一部の研究者の間では、新しい制度を導入することで「ただでさえ複雑と批判されることの多いわが国の年金制度がさらに複雑化し、結果的に使い勝手が悪くなる」との懸念の声があります(i)。

実は筆者も同じような懸念を持っています。こうした懸念を持つ契機となったのは、オランダやイギリスでは長い時間をかけて「第3の企業年金」の在り方を議論していることを知ったからです。なぜこうした国々で時間をかけているのかを理解することは、我々にとっても無駄ではないと考えています。

例えば、DAという考え方に至るプロセスを見ると、オランダとイギリスでは事情がだいぶ違います。オランダには長い時間をかけて育んだDB制度に基づく職域年金があります。しかし、会計制度の変更、金融市場の混乱、年金債務を評価する金利水準の低下、さらには長寿化の進展など、従来のままではDB制度を維持することが難しくなったことがDAに向かう議論の原点です。

他方、イギリスではDB制度に基づく企業年金は急速にその数を減らし、受け皿となったDCの機能も十分とは言えません。このままではイギリス国民の将来が懸念される状態になったことがDAへ向かう議論の原点です。

このような違いを整理すると、オランダの「DBからDAへ」という動きと、イギリスの「DCからDAへ」という二つの流れがあると考えることができます(ii)。

こうした「向きの違い」は制度が目指すべき役割やその制度の具体的な在り方にも影響を与えています。また、同じCDCという仕組みもそれが登場したタイミングがオランダとイギリスでは異なり、この言葉がもたらすイメージにも幅があります。

そして何よりも強調しておきたいのは、オランダにおいてもイギリスにおいても具体的な制度設計については、まだ議論が継続しているということです。そこで、このシリーズの第二回目ではCDCとDAが生まれたオランダの事情、そして第三回目ではDAを法制化したイギリスの事情を紹介してみたいと思います。

(i)「確定拠出年金(DC)制度改革の好機到来-高まる運用改善の重要性」野村亜紀子野村資本市場クオータリー2014Autumun
(ii)DBからDAへ、DCからDAへの考え方については「Dutchlessons:defined-ambitionpensionsintheNethterlands」Dr.ThurstanRobinson&ErikSchouten,OxeraAgenda,December2012を参照している

参考文献
「英国における目標建て(DefinedAmbition)企業年金制度の導入について」杉田健2015年4月「我国におけるハイブリッド型企業年金制度の拡充について」(公)日本年金数理人会2009年4月「英国における集団運用型確定拠出型年金導入の議論」神山哲也、田中健太郎野村資本市場クオータリー2014Winter

前田俊之
ニッセイ基礎研究所 金融研究部

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