「消えた年金記録」が導入の引き金に

マイナンバー制度は、正しくは「社会保障・税番号制度」。13年5月に交付された「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」で規定され、当初の利用範囲は悪用の恐れが少ない税、社会保障、災害の3分野に限られる。具体的には就職や転職、出産・育児、年金の受給、災害に遭ったときなど市町村が個人を確認するときに利用する。

日本には個人を特定するための手段がない。例えば、引っ越しをした人が税金を滞納したまま同じ住所に戻ってきても、名前と生年月日が同じでも自治体には滞納した本人と同じかどうか確認する術がない。最近では名前と住所が同じだからと自治体が差し押さえに踏み切り、他人に間違えられたと訴訟を起こされるケースが多発している。

本人を特定するための試みは以前からあった。1984年1月から導入予定だったグリーン・カード(少額貯蓄等利用者カード)は、いわゆるマル優の利用者にカードを配り番号を指定することでマル優利用口座を持つ人を特定しようとした制度だったがプライバシーの侵害だと反対意見が多く、85年に見送られた。

地方自治体が持つ住民基本台帳をコンピューターでネットワーク化し、全国共通で本人確認できるシステムの構築を目指した住宅基本台帳ネットワーク(住基ネット)も、03年8月に11ケタの住民票コードと認証情報が記録されたICカード「住民基本台帳カード」の発行が開始されたものの、セキュリティを懸念する声が高まり普及率は数%にとどまっている。

潮目を変えたのは07年5月に発覚した「消えた年金記録」問題だった。納付記録はあるものの、持ち主の分からない年金記録が約5千万件もあることが明らかになり、記録を管理する社会保険庁が糾弾されたのは記憶に新しい。

宙に浮いた年金記録を照合する作業は難航を極め、社会保障制度をうまく機能させるには一人ひとりの情報をきちんと管理する仕組みがどうしても必要であると強く認識されることになった。年金記録にマイナンバーを使えば、名前や住所が変わっても最新の情報が確認できるから、年金記録の問題はなくなる。年金受給者も行政機関のネットワークシステムで瞬時に情報が得られ、住民票や所得証明の書類を省略できる。

急速に進む少子高齢化で日本の年金財政は逼迫し、社会保障の拡充どころの話ではなくなっている。余裕のある人から多くを徴収して支援を求める人に分配する公平な税制が必要だ。複数の機関に存在する個人情報を同一だと確認し、個人の所得と資産が特定できるマイナンバーはこれからの日本にどうしても必要な社会インフラなのだ。

なお、マイナンバーと同様、今年10月から企業には13ケタの法人番号が通知される。マイナンバーと異なるのは、番号の指定を受けた法人の名称、本社など主たる事業者の所在地、法人番号が国税庁のホームページで公表され、誰でも自由に検索・閲覧できることだ。これにより、多機関にわたっていた行政手続きの申請や企業間取引の事務効率化が図れると期待されている。

(この記事は10月6日号「 経済界 」に掲載されたものです。)

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