金融市場の見通し

◆日米欧の政策金利

先進各国ともに景気の下支えのために金融政策に依存する状況が続いてきたため、日米欧の政策金利は未だにほぼゼロと歴史的な低水準にある(日本は異次元緩和開始に伴い、マネタリーベースを誘導目標としたため、厳密には政策金利がない)。ただし、既述のとおり、景気回復基調が続く米国は利上げが視野に入っており、2015年内には利上げを開始する。その後2018年にかけて、従来と比べれば緩やかながら段階的な利上げが続き、政策金利は3.50%で着地するだろう。

一方、米国に比べて景気回復の力強さが欠けるユーロ圏では、2016年9月にかけて現行の量的緩和を継続。その後は1年程度のテーパリング(量的緩和の段階的縮小)を経て、終了する見通し。政策金利の引き上げ開始は、米国から約3年遅れとなる2018年末を予想している。その後の政策金利は、2021年にかけて1.75%まで緩やかに引き上げられると見ている。

中期経済見通し32

日本については、2%の物価目標のハードルが高いため、異次元緩和を長期にわたって継続することになる。ようやく物価上昇率が2%に達するのは東京五輪の開かれる2020年度となるが、物価が上昇して将来の達成が視野に入ってくる2018年度にはテーパリングが開始されるだろう。翌2019年度には異次元緩和が終了し、政策金利(誘導目標金利)が復活、物価上昇率が2%を超える2020年度には小幅ながら利上げが実施される。

2021年度以降は物価上昇率がやや鈍化するが、1%の水準は概ね上回ること、過去の異次元緩和によって日銀のマネタリーベースの規模が名目GDPを上回る水準まで膨らんでいることから、予測期間末にかけて、ごく緩やかな出口戦略(利上げと償還資金再投資の停止によるマネタリーベースの縮小)が進められる。予測期間末の政策金利は0.50%と予想する。

◆日米欧の長期金利

米長期金利については、今後も堅調な景気回復が続く中で、利上げの開始や進行に伴って上昇基調を辿り、利上げが打ち止めとなる2018年以降は4%台に乗せる。ドイツの長期金利もユーロ圏の緩やかな景気回復に伴う金融政策の正常化と引き締め、米金利上昇を受けて緩やかに上昇し、利上げが打ち止めとなる2021年には2%台を回復する。

日本の長期金利は異次元緩和に伴う日銀の国債大量買入れによって、予測期間前半は低位に抑えられるものの、米金利上昇という外部からの上昇圧力を受ける。そして、2017年度頃からは、徐々に異次元緩和の終了が意識されることも金利上昇圧力となる。予測期間後半になると、金融政策の正常化を受けて、次第に「期待潜在成長率+期待インフレ率」の水準である2%台前半に収斂していく。

米国との比較では、期待成長率や期待インフレ率の格差などを反映する形で、相対的に低い水準に留まることになる。なお、予測期間の終盤に日本の経常収支が赤字化するが、これまでに積み上げた膨大な対外純資産の存在や、追加の消費税率引き上げを含む財政健全化姿勢の堅持が市場の不安感を抑制することで、財政懸念に伴う長期金利の上昇は極めて限定的となるとみている。従って、予測期間内に金利が急騰する事態は見込んでいない。

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◆為替レート

ドル円レートについては、予測期間序盤のうちは、日本の異次元緩和が長期化する一方で米国が利上げを続けることに伴って日米長短金利差が拡大、ドルの投資妙味が上昇することで、2017年度にかけて1ドル130円台前半まで円安ドル高が進むだろう。

しかし、予測期間半ばには、米国の長短金利が頭打ちとなる一方、日本では異次元緩和が終了、利上げなどの金融政策の正常化が進められることで日米金利差が縮小するため、円は対ドルで上昇に転じる。予測期間末にかけて緩やかな円高ドル安基調が続く見通しである。

金利差要因以外では、予測期間終盤には基軸通貨ドルの相対的な地位低下というドル安要因が追加的な円高圧力となるが、一方で日本の経常収支赤字化という円安要因が円高圧力を緩和する方向に働く。これらの結果、終盤にかけても円高基調は続くものの、水準としては、予測期間末時点で1ドル125円と、現状の為替レートと比べてやや円安の水準に着地すると見ている。

ユーロドルレートも、当面は米利上げが先行することによって一旦ドル高ユーロ安が進行する。しかし、ECBは2016年秋から、テーパリングを皮切りに金融政策の正常化を進めるため、これを織り込む形でユーロは上昇に転じるだろう。また、予測期間終盤にかけては、基軸通貨ドルの相対的な地位低下を受けて、ドルに次ぐ位置付けにあるユーロは、その主たる受け皿の役割を担うことになり、ユーロドルに上昇圧力がかかる。予測期間末には1ユーロ1.30ドル手前に到達すると予想。

ちなみに、ユーロ円レートは、当面は円とユーロの弱さ比べの様相となる形で方向感が出ないが、ユーロ圏の金融政策正常化が先行することで、予測期間中盤にかけてユーロ高基調となる。その後は日本も金融政策の正常化を進めることから再び方向感が出なくなり、予測期間終盤は160円程度での推移になると予想している。

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