◆財政収支の見通し

政府は2017年度に消費税率を8%から10%へと引き上げた後、2020年度までは税率引き上げをしないと明言している。内閣府が2015年7月に公表した「中長期の経済財政に関する試算」では、2020年度の国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の名目GDP比は▲1.0%(経済再生ケースによる)となっており、2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという政府目標は達成されない形となっている。

今回の見通しでは2020年度まで消費税率引き上げの前提が内閣府試算と同じだが、当研究所の予測では2020年度の基礎的財政収支は▲1.9%とこれよりも赤字幅が大きくなっている。当研究所の名目成長率の見通しが内閣府試算よりも低い(内閣府試算の前提は2015~2020年度の平均成長率が3.3%となっているのに対し、当研究所の見通しは平均2.1%)ことが両者の差の主因と考えられる。

今回の予測では、財政再建を進めるために2021年度、2024年度にそれぞれ消費税率を2%引き上げ、予測期間末の消費税率は14%になることを想定している。一方、支出面では「機動的な財政政策」を掲げていることもあり、今後も景気が悪化した場合には大規模な財政出動が見込まれること、国土強靭化、社会インフラの再構築を推進していることから公共投資の増加傾向が続くことが予想される。

また、2014年度は消費税率引き上げによって実体経済は低迷したものの、大幅な円安や原油価格下落によって企業収益が堅調を維持したことなどから、税収への悪影響は小さかったが、次回以降の増税時に今回のように外部環境が改善する保証はない。消費税率引き上げによって消費税以外の税収がある程度低迷することは避けられないだろう。このため、基礎的財政収支の赤字は縮小傾向が続くものの、2025年度でも▲1.0%と小幅な赤字が続くと予想する。

この結果、すでに名目GDP比で約200%となっている国・地方の債務残高は増加を続け、2025年度には約1400兆円、名目GDP比で230%程度まで上昇することが予想される。

なお、見通し期間中は長期金利の上昇傾向が続くため、債務残高に対する利払い費の割合が上昇する。単年度の長期金利の上昇が国債残高全体の平均金利の上昇に直結するわけではないが、長期金利の継続的な上昇は利払い費の着実な増加につながる。このため、利払い費(ネット)を含む財政収支は基礎的財政収支に比べ改善ペースが遅くなるだろう。

中期経済見通し31