◆第一次所得収支の黒字は高水準が続く
海外生産シフトの拡大は輸出の下押し要因となる一方、直接投資を中心とした対外資産の増加を通じて第一次所得収支の増加をもたらすというプラス面もある。経常黒字の蓄積による対外資産の増加と大幅な円安を反映し、2014年度の第一次所得収支は前年度から2兆円近く増加し19.2兆円(GDP比で3.9%)となった。
日本の対外資産は1990年末の279兆円から2014年末には945兆円まで増加し、対外資産から対外負債を差し引いた対外純資産も2014年には367兆円、GDP比で75%に達している。また、かつては対外資産に対する利回り(所得収支の受取/対外資産)と対外負債に対する利回り(所得収支の支払/対外負債)の差があまりなかったが、1990年代半ば以降は資産利回りが負債利回りを安定的に上回っており、足もとではネットの収益率が2%弱(資産利回り-負債利回り)となっている。
今回の予測では、為替レートは2017年度まで円安が続いた後、2018年度以降は円高傾向で推移するとしている。このため、第一次所得収支の黒字幅は2010年代後半にかけてGDP比で4%台半ばまで拡大した後、予測期間後半は黒字幅が徐々に縮小すると予想する。
◆2020年代前半に経常収支は赤字へ
中長期的には、経常収支は貯蓄投資バランスによって決定される。部門別の貯蓄投資バランスの推移を見ると、家計部門は一貫して貯蓄超過を続けてきたが、2013年度は小幅ながら貯蓄不足となった。一般政府はバブル期に貯蓄超過に転じた局面もあったが、バブル崩壊後は赤字を続けている。また、投資超過で推移していた企業部門(非金融法人)は1998年度に貯蓄超過に転じてからは約15年にわたってその状態が続いている。
家計貯蓄率は高齢化の影響などから長期的に低下傾向が続いてきたが、2013年度は消費税率引き上げ前の駆け込み需要で個人消費が高い伸びとなったことからマイナスに転じた。2014年度に消費増税の影響で消費が大きく落ち込んだ後、2015年入り後も消費の低迷が続いていることから、足もとの家計貯蓄率はプラスになっている可能性が高い。
しかし、先行きは高齢化がさらに進展することから再び低下傾向となり、2019年度以降はマイナスとなることが見込まれる。これに伴い家計部門の貯蓄投資バランスも2020年代には投資超過となることが予想される。
企業部門は、設備投資の伸びが高まることや金利上昇に伴う利払い費の増加から貯蓄超過幅は縮小に向かう。政府は財政赤字の削減が緩やかながらも進展することから投資超過幅は縮小傾向となるだろう。
今回の見通しでは、政府の投資超過幅は縮小するものの、家計が貯蓄超過から投資超過に転じ、企業の貯蓄超過幅が縮小する結果、経常収支は予測期間終盤に小幅ながら赤字化すると予想する。