ビジネス 男性
(写真=PIXTA)

日本の大企業では「出世すごろく」の”上がり”が役員であることが多く、多くのサラリーマンにとって役員になることは夢であろう。しかし、昇進と引き換えに役員になると重い責任を負うことになることも忘れてはいけない。場合によっては刑事責任を問われることもある。今回は役員の代表的存在である株式会社の取締役を挙げて、取締役になったら知っておくべき(ならなくても知っておくべき)取締役の法的責任を解説する。


会社、株主から責任を問われる

取締役になるとまず会社と自分との法的関係が変わる。従業員は雇用関係に基づき会社の指揮命令によって労働力を提供するだけにすぎないが、取締役と株式会社の関係は「委任」という形になる。より正確に言うと取締役は、特定の事務を処理することを株式会社から委任を受けて職務を執行するということである。会社との関係が変わることで、責任・権限・義務などに違いが出てくる。

取締役は株式会社に対し「善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)」を負っていることになる。善管注意義務とは、委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意を持っていなければならないということであり、簡単に言えば注意のレベルより重くなるということだ。

そのため、職務を遂行する善管注意義務を尽くさず株式会社に損害を与えた場合は、任務懈怠(けたい=行うべきことを怠ること)として、株式会社から損害賠償責任を追及されることになる。株式会社から損害賠償請求を受けない場合であっても、代わりに株主から損害賠償責任を追及されることもある(株主代表訴訟)。


競業、利益相反取引に制限

また会社法では取締役は「法令や定款、株主総会の決議を遵守し、株式会社のために忠実にその職務を行わなければならない」と規定されている。これが忠実義務と呼ばれているものだ。

忠実義務から派生した義務として、取締役は競業(競合他社への転職、競合する会社の設立など)を制限され、また利益相反取引(会社に不利益をもたらす取引)を制限される。もし取締役が競業や利益相反取引を行うときは、取締役会や株主総会の承認を得る必要がある。