(写真=PIXTA)
米投資銀行ゴールドマン・サックスは夏季インターン生に対し、午前0時以降の残業を禁止した。過酷な勤務環境で知られるウォール街においても、2年ほど前、バンク・オブ・アメリカのロンドン支店で、ドイツ人のインターン生が死亡したことから、ワークライフバランスを重視する流れが急速に広がっており、その中で非常に重視されている考え方が「健康経営」である。
単に医療費が削減できるだけでなく生産性・創造性も向上する
「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的視点から戦略的に実践することにより、企業価値を高めていこうとするものだ。
1980年代に米国の経営心理学者ロバート・ローゼン氏によって、「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」という“ヘルシー・カンパニー”思想が提唱されたことが発端だ。従業員の健康管理、健康づくりの推進は、単に医療費といった経費の削減につながるだけでなく、生産性の向上や従業員の創造性の向上、企業イメージの向上などの効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントにもつながり、近年非常に注目を集めている考え方である。
ウォール街とシリコンバレーの激しい人材獲得競争
ウォール街の金融機関が「健康経営」の概念を取り入れ、ワークライフバランスを重視し始めた背景には、シリコンバレーとの激しい人材獲得競争が挙げられる。これまで、米国のトップスクールを卒業した最優秀層は、「最高の給与」と「最高のステータス」を求めて、ウォール街の金融機関への就職を目指した。
しかし、リーマンショック以降、事態は一変。ウォール街の“行き過ぎた拝金主義”への風当たりが強くなったことに加え、ゴールドマン・サックスのアニュアルレポートによれば、2014年の従業員1人あたりの報酬は、2007年から43%も低下していることが明らかになっており、給与面でも、就職先としてのウォール街の魅力は低下している。
さらに2015年7月から実施されたボルカー・ルールにより、自己資金で取引を行う「自己勘定トレーディング」が原則として禁止になるなど規制は強まる一方で、さらなる収益性の悪化が予想されることも懸念要因だ。
従業員が最高の環境で勤務できるよう、いたれりつくせりの環境を用意するシリコンバレーのテクノロジー企業と比較すると、ウォール街の金融機関は、人気で見劣りしているのが現状だ。