データ分析

10月30日の日銀金融政策決定会合は、展望レポートで景気・物価シナリオが大きく下方修正された中で、追加金融緩和を決定しなかった。日銀金融政策決定会合に関して、追加緩和の是非を検討という報道が事前にあったことは、日銀執行部(総裁と副総裁二人)は緩和提案をする考えがあったことを示していると言える。

政策委員会で過半数(5票)を取れる確信が持てるかが、結果を左右したのだろう。確信が持てれば、緩和提案がなされ、追加緩和が決定したはずだ。しかし、確信が持てなかったため、総裁提案が否決されることは望まないため、提案は見送られたとみられる。

白井審議委員は、景気・物価動向に慎重な考えを持っているとみられ、総裁提案がなされれば賛成した可能性がある。一方、石田・佐藤・木内審議委員は、そもそも現行の量的・質的金融緩和に対して慎重な考えを持っているとみられ、反対した可能性が高い。そうなると、比較的新しいメンバーである原田・布野審議委員のうち、どちらかの一票が、総裁提案の可決には必要であった。

布野審議委員は輸出製造業出身であり、輸出製造業への利益誘導とみられかねない円安を更に加速させる可能性がある追加金融緩和には、相当な理由がなければ賛成するのを躊躇する可能性があったと考えられる。

そして、リフレ派とみられている原田審議委員の講演が11月11日に行われた。原田審議委員も、「経済と物価で想定通りにならないリスクは多々ある」としながらも、「量的・質的金融緩和は所期の効果を発揮しており」、「2015年度末には消費者物価が2%に向けて上昇していることが確認でき」、「現在の段階では追加金融緩和は必要ない」と述べ、賛成の可能性は低かったのだろう。

日銀の正式には、2015年度と2016年度の実質GDP成長率の予想がまだ潜在成長率を上回っていることが、追加緩和見送りの理由となっているとみられる。潜在成長率(0.5%程度)を下回り、需要不足幅が持続的に拡大しない限り、2%物価上昇の目標の達成時期が遅れても、いずれ達成することになり、追加金融緩和は必要ないというスタンスのように見える。

目標を「できるだけ早期に実現する」という日銀のコミットメントは有名無実化し、追加金融緩和を実施するハードルは上がってしまった。原田審議委員は、「雇用が悪化し、物価を基調的に上昇させるメカニズムが危うくなれば、躊躇なく追加の金融緩和を行うことが必要」と述べている。

成長率が潜在成長率を下回り、失業率が悪化するような状況になれば、追加金融緩和が決定させる可能性があるが、今のところその可能性は小さくなったとみるべきだろう。7-9月期の実質GDP成長率の2四半期連続のマイナスの結果(前期比年率-0.8%の結果)は、10月30日時点の日銀の見通しに既に織り込まれていると考えられる。


貸出態度DIは失業率に先行する指標

内需の動向を最も敏感に反映すると重要視している日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIは4-6月期に+16と、前回のサイクルのピークである+12をとうとう明確に上に突き抜け、今回のサイクルが前回と比較しデフレ完全脱却へより強い動きとなっていることが確認できている。DIは失業率にきれいに先行する指標である。DIの改善に従い、失業率が自然失業率とみられる3.5%を明確に下回り、強い総賃金の拡大がデフレ完全脱却への実感につながっていく動きは順調だ。

しかし、7-9月期には+16と横ばいとなり、長引く消費税率引き上げの悪影響やグローバルなマーケットの不安定などにより、企業心理が弱体化し、DIも改善が一時的に鈍っていることが確認された。10-12月期にこのDIが大きく悪化してしまうと、総賃金の強い拡大に向かうデフレ完全脱却のシナリオにリスクが出て、追加金融緩和の可能性が高くなる。逆に、このDIが堅調であれば、追加金融緩和の可能性は低いままである。これまで以上に、このDIを注目することになろう。

1月上旬に政府による景気対策が決定する可能性が高く、10-12月期は改善がないとしても、1-3月期以降は再び改善が明確になっていくと考えられる。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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