「おうちダイレクト」,ソニー不動産
(写真=PIXTA)

ヤフーとソニー不動産は11月5日、不動産売買プラットフォーム「おうちダイレクト」のサービスを開始し、1都3県のマンションの売却で、売主の売却に係る仲介手数料は「無料」とすることを発表した。不動産業界の関係者の声を聞くと、業界慣行を革新する取り組みとして一定の評価をする声がある一方、同プラットフォームについて、ヤフーとソニー不動産による顧客の囲い込みのためのものだ、とする批判も少なくない。(提供: storie2015年12月7日掲載 )

storieでは、この「おうちダイレクト」のサービスと狙いについて、ソニー不動産の企画管理部 経営管理室 室長の吉元洋志氏に話を伺った。


おうちダイレクトの特徴

storie: 「おうちダイレクト」のサービスの特徴は何でしょうか。

吉元氏: 「おうちダイレクト」の売主向けのサービスとしての特徴は、マンションのオーナーが、自分の家の推定価格を知ることができる点です。従来は不動産会社に査定を依頼したり、一括査定サイトを利用したりして、数日かかっていたのが、このサービスを使えば、すぐにわかります。また今回のサービスでは、人工知能を使ったシステムでの不動産価格推定エンジンで自動的に算出しているため、人の恣意性が入らない点も特徴です。

売ることを本格的に考えていないようなマンションのオーナーの方でも、常に自分のマンションの価値、システム推定価格を把握できるという点に、新しい価値があると考えています。このシステム推定価格のデータは、概ね週1回を目安にアップデートされる予定です。


売主個人が直接Webで売り出せる

従来のサービスであれば、我々が顕在層と呼んでいる、「売ると決めている人」、または「売ることを前向きに考えている人」は、売却の査定価格等を参考にしながら不動産会社に行って、媒介契約を結び、広告をしてもらうという形でしたが、そもそも不動産会社に行くという点に心理的なハードルを持つ層がいるのではないかと考えています。

また、扱うものが不動産だからといって、必ず実店舗に行かなければ広告活動ができないということはなく、売主個人が自分の意志で値段を決めて、WEBを通じて広告を出せるサービスを新しい提供価値として市場に出せることが、今回の「おうちダイレクト」の最大の特徴と考えています。

不動産会社に対して、「査定で出された額でしか売りに出せないのではないか」などいった疑問や、何となく不安感を持っている層がいるという想定から、この「おうちダイレクト」では、とにかくそのハードルを下げることを目指しています。


売主の仲介手数料無料の狙い

storie: 売主側のユーザーの手数料を無料に踏み切った理由はなぜでしょうか。

吉元氏: ひとつは、売主自らがヤフー不動産というWEBメディアを使って販売活動ができるため、その分のコストが省けるという点です。通常は、売却を依頼した先の不動産会社が、売却ためのコンサルティングサービスや諸々の広告、販売活動を行っていますが、今回の「おうちダイレクト」では、売主自身が行うことになります。

実際には、内見の申込が入った段階から、我々が仲介業者として入っていきますが、仲介業務のうち、販売活動や広告活動の部分が省略できているので、その分の手数料は減額するという考え方です。

その上で、手数料を何%にするのか、というのは政策的な話になってきますが、まずは物件が集まるようにすることが大切なので、中古物件の売主の不動産会社に対する疑問や不安感とともに、売却に関する手数料がそれぞれハードルになっている可能性があれば、思い切ってその障害を取り除こうとゼロにしました。

従来のままでは流通市場に出てこないような物件も含めて、このプラットフォームにさまざまな物件が集まってくる方向に働きかけることを目指しています。


売却仲介手数料無料の言い出しっぺは?

storie: 「おうちダイレクト」で売却の手数料を無料にするというのを決めた、あるいは検討段階で提示したのは、ソニー不動産から、それともヤフーからでしょうか。

吉元氏: 両社の話し合いの中で、売り出し数を最大化し、現状の潜在的な売主の課題に応えるためには、無料にするのがいいだろうという結論に至ったものです。


おうちダイレクト以外の仲介も扱うソニー不動産

storie: ソニー不動産では「おうちダイレクト」を経由しない仲介を、売却も含めてやっていくのでしょうか。

吉元氏: そこは継続していきます。両立し得るものだと思っています。

storie: 既存のソニー不動産の仲介サービスと競合することにはならないのでしょうか。

吉元氏: 最終的にはお客様が決めることですが、既存の売却仲介サービスは、エージェント制を採用し、売主の立場できちんと販売活動からクロージングまで一気通貫でやっていくのに対し、新サービスではそもそも売る場所が違います。

通常であれば専任媒介契約を締結して、レインズに物件情報を掲載する、といった手順で既存の市場の中でやっていきますが、今回はヤフー不動産の「おうちダイレクト」という新たなマーケットの中で販売活動をしていきます。販売活動の大部分を、売主である個人が行う市場において、宅建業者が必要になる部分からソニー不動産が入っていって、所有権をきちんと売主から買主に移転させるという取引実務の取り仕切りをやらせてもらう形です。

記者会見で当社の代表の西山が「エージェント制」と「コーディネーター制」という言葉を使って説明したのもその趣旨で、これは全く別のサービスラインとして、両立し得ると考えています。


「巨大な囲い込み」という批判にどう答えるか?

storie: 一部の業界関係者からは、「おうちダイレクト」でソニー不動産とヤフーが巨大な囲い込みの仕組みを築こうとしているのではないか、という批判がありますが。

吉元氏:「囲い込み」という言葉の解釈にもよりますが、不動産業界で一般的に言われている「囲い込み」というのは、「売主から買主の探索を委託されている仲介会社が、他社が連れてきた買主への物件紹介を断ること」を意味していると認識しています。

今回の「おうちダイレクト」の試みは、そもそも売主は仲介会社に買主を探すことを委託せず、自らがヤフー不動産という大きなメディアを使って販売活動をやろうというもので、そもそも前提としている取引形態、販売活動の形が違います。

オーナー自らが物件情報を掲載して、自分で買主を探すためのプラットフォームをヤフー不動産上に提供することは、囲い込みというよりは、むしろ、売主に対して自由に販売活動をできる場を提供することであると考えています。

「最終的なクロージングがソニー不動産になるから、このシステムは、巨大な囲い込みシステムだ」とおっしゃるのであれば、「そういう声もあるでしょう」としか答えようがないものです。


売却物件が市場に流通しないことが問題

ただし、不動産業界で「囲い込み」という言葉が語られる中で、本質的に問題なのは、そもそも物件情報が市場にさらされないという点にあると考えます。今回の「おうちダイレクト」は極めてオープンな形で売主の意思がダイレクトに表現され、ヤフー不動産上で公開されるので、今まで語られている「囲い込み」とは全く異なるものだと考えます。

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