リフレ政策による景気回復が税収の大幅な増加に寄与しており、緊縮財政ではなく、リフレ政策によって財政を改善させるアベノミクスの方向性の正しさと大きな成果としても認識されてきた。しかし、増税をしないかぎり一般政府収支の赤字が減少しないという改定された内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」は、アベノミクスの効果を否定している。

では、どのようにアベノミクスの効果を否定しているのだろうか?

中長期の経済財政に関する試算に関しては、名目GDP成長率が3%程度の前提をおいていることが問題があるとの指摘が多い。確かに、内閣府の試算の名目GDP成長率の前提は、2016年度から2020年度まで、+3.1%・+2.4%・+3.9%・+3.5%・+3.6%と、しっかりとした数字になっている。

しかし、政府の債務の利払い費となる国債10年金利の前提が、2016年度から2020年度まで、0.7%・1.4%・2.2%・3.2%・3.9%と、想像を絶する高さになっている。2020年度において、名目3%台の成長より、4%近い長期金利の方が、圧倒的に非現実的であると考える。

現在、名目GDP成長率が長期金利をバブル期以来はじめて持続的に上回るようになっており、本格的なリフレ局面の入り口に来ている。

アベノミクスの目指す財政再建とは

アベノミクスは名目GDP成長率をマイナスからプラスにまず押し上げ、企業のリスクテイクを促すビジネス環境を改善させ、企業活動の拡大の力を使って構造的な内需低迷とデフレから脱却、そして財政再建を目指す政策である。

この名目GDP成長率と長期金利のプラスのスプレッドが、景気・マーケットのリフレの源であり、税収の大幅な増加による財政収支の急速な改善の原動力となっている。

実際に、財政収支の改善幅とこのスプレッドには極めて強い相関関係(スプレッドの拡大と財政改善)が確認できる。中長期の経済財政に関する試算によるスプレッドは、2016年度から2020年度まで、+2.4%・1.0ppt・+1.7ppt・+0.3ppt・-0.3pptとなっており、長期金利の急騰により、2020年度までに完全に消滅してしまう、言い換えればアベノミクスの効果が消滅してしまうことが前提となっている。

結果として、2018年度から2020年度までの一般政府収支の赤字(GDP比率)は、-3.5%・-3.3%・-3.3%で、ほとんど改善がみられない試算となっている。

2%の安定的な物価上昇の実現はかなり時間がかかり、日銀が量的金融緩和のテーパリングを完了させ、利上げに転じるのは2020年度まで待たなければならないと考えられる。そうなれば、2020年度の名目GDP成長率が3%程度であっても、長期金利は2%程度にとどまると考えるのが自然だろう。

結果として、名目GDP成長率と長期金利のスプレッドは2020年度までプラスで維持されるとすると、一般政府収支の改善は2018年度以降も継続し、2020年度の赤字幅はもっと小さいはずだ。

デフレ復活を許してしまうのか

起点の2015年度の1.3pptのバイアス(試算の-5.1%と資金循環統計の-3.8%の差)を修正し、リフレによる改善ペースが続くと仮定すると、追加的な財政緊縮策がなくても、2020年度には、基礎的財政収支だけではなく、一般政府収支も黒字化する可能性がある。そうなると、財政の緊縮ペースが速すぎて、景気モメンタムを失速させ、デフレの復活を許してしまはないか不安になる。

実際に、中長期の経済財政に関する試算では、民間貯蓄(GDP比率)が2014年度の+6.8%から2020年度の+8.2%へ大きく拡大しており、需要不足がデフレ圧力を強くするような矛盾した前提もみられる。高齢化にもかかわらず、民間貯蓄の動きがこれだけ強ければ、財政緊縮を急ぐ必要は全くないばかりか、長期金利はもっと低くなるはずだ。

もともと2020年度の基礎的財政収支を黒字化するという政府の目標は、計画策定の2010年度からちょうど10年で切りがいいという以外に経済的な意味はない。中長期の経済財政に関する試算は、消費税率引き上げの計画通りの実施や追加的な財政緊縮策の方向性を作るバイアスが感じられ、問題がある。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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