(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

はじめに

英国の所得補償保険(就業不能保障保険)については、前回「基礎研レター」で紹介したとおり(*1)であるが、同稿でも述べたとおり、英米には日本の健康保険の傷病手当金に相当するような高額の公的所得保障制度はない。

また、日本には、健康保険の傷病手当金のほか、公的所得保障制度として、国民年金の障害基礎年金(1級・2級)、厚生年金の障害厚生年金(1級・2級・3級)がある。しかしながら、傷病手当金に比べて給付の対象は狭く、重度の障害状態を保障する仕組みとなっている。

一方、米国においても、障害年金に相当する制度として、老齢・遺族・障害年金((Old-Age, Survivors,and Disability Insurance)のうち、1956年に創設された社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance)がある。

社会保障障害保険の対象となる稼得不能(inability to engage)も、重度の障害状態に限定されており、「死に至るか12か月以上継続すると予測され、かつ、医学的に診断可能である身体的・精神的機能障害によって、いかなる実質的な稼得活動にも従事できない状態」と定義されている(*2)。

公的所得保障制度においては重度の障害状態のみが保障されることから、米国ではdisability insurance(就業不能保障保険)と称される民間就業不能保障保険(所得補償保険)が広く販売されている。

本稿では、米国における社会保障障害保険および民間の就業不能保障保険の概要について報告することとしたい。

―米国の公的年金制度による社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance)

米国の老齢・遺族・障害年金は、一般に社会保障年金(Social Security)と称され、被用者や自営業者の大部分(2014年の加入者は1億5900万人で、全被用者、自営業者の約94%をカバー)を対象としている。

連邦政府の社会保険庁(Social Security Administration)が運営しており、社会保障税(Social Security Tax)を10年以上納付した者に対し、66歳(2027年までに67歳に引き上げ)から年金を給付する制度である。

社会保障年金は、ルーズベルト大統領時代の1935年、社会保険法(Social Security Act)により実施されたが、障害年金については、当初から検討されていたものの、連邦の権力が医療分野において増大するとの反対の声があり、実施されたのは、アイゼンハワー大統領時代の1956年の社会保険法改正によってであった。

米国においては、2014年には18歳から64歳の1億9625万人のうち、就業不能者は1543万人(7.9%)を占める(*3)。平均的な月間支給額は1165ドル(年間1万3980ドル、2015年始)となっている(*4)。