おわりに-就業不能保障保険の精神障害に対する保障-

公的所得保障制度においては、日本の障害年金、英国の雇用・支援給付、米国の社会保障障害保険とも、重度の障害状態を保障する仕組みとなっており(*9)、精神障害も保障している。

日本の障害年金受給者は障害厚生年金・障害基礎年金合わせて223.6万人(併給者を控除すると200.9万人、2013年度末)に達している(*10)が、精神・知的障害による障害年金受給者が急増している(*11)。

一方、民間就業不能保障保険における精神障害に対する保障は、日本と英米の間で差異がある。英米における民間就業不能保障保険は、一般に精神障害による保障を行っているケースが多い(精神障害既往歴がある場合は謝絶)。

日本においては、個人就業不能保障保険においては精神障害を免責としているケースがほとんどである(団体向けの就業不能保障保険においては、「精神障害担保特約」を付加することで、保険料を上乗せした上で保障しているケースがある)。

英米の就業不能保障保険(所得補償保険)においても、
・精神神経系の割合が上がっている(*12)
とされていることから、新契約時の保険会社による選択の厳格化などを前提とした、就業不能保障保険における精神障害に対する保障についても、今後の商品開発の一つのポイントとなろう。

(*1)小著「英国の所得補償保険について」『基礎研レター』、ニッセイ基礎研究所、20016年1月。
http://www.nli-research.co.jp/report/letter/2015/letter160118.html。
(*2)百瀬優「アメリカにおける障害者に対する所得保障の歴史と現状-障害年金、公的扶助、就労支援-(上)、(下)」『立教経済学研究』、2009年7月・2009年10月、「北米地域にみる厚生労働施策の概要と最近の動向(米国)」『2014年海外情勢報告』、2015年3月、厚生労働省ホームページ。
(*3)"Income, Poverty, and Health Insurance Coverage in the United States:2014 Current Population Reports"(2015年9月)、米国国勢調査局(CensusBureau)ホームページ。
(*4)"TThe Facts About Social Security's Disability Program"(2015年4月)、米国社会保険庁(Social Security Administration)ホームページ。
(*5)"A Workers' Most Valuable Asset: Protecting Your Financial Future with Disability Insurance"、NAICホームページ。
(*6)Kenneth Black,Jr.Harold D.Skipper,Jr."Life and Health Insurance Thirteenth Edition" 、Kenneth Black,Jr.Harold D.Skipper,Jr.『生命保険(第12版)』前掲、松崎健「所得補償保険に関する考察」前掲、天野卓「所得補償保険を巡る最近の動向」『ニッセイ基礎研REPORT』、2004年3月。
(*7)"Field Underwruting Guide Disability Income Insurancen"、2015年4月、ガーディアン生命ホームページ。
(*8)田中周二「第三分野保険(医療、就業不能、介護)の経験表の作成について-ヒューマンセキュリティへの基盤研究-」『総合政策学ワーキングペーパーシリーズ』No.63、2005年4月、慶応大学21世紀COEプログラム。
(*9)たとえば、障害1級は両眼の視力の和が0.04以下のもの、両上肢の機能に著しい障害を有するもの、両下肢の機能に著しい障害を有するもの、精神障害など身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとされている。支給金額としては、障害厚生年金は標準報酬月額と加入期間比例、障害基礎年金は定額で1級は975,100円、2級は780,100円となっている(日本年金機構『障害年金ガイド平成27年度版』、日本年金機構ホームページ)。
(*10)厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業年報平成25年度』、厚生労働省ホームページ。
(*11)百瀬優「なぜ障害年金の受給者は増加しているのか?」『早稲田商学』第439号、2014年3月、厚生労働年金局「障害年金の受給者数等に関する統計資料」『精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会(第1回)』(2015年2月19日)、厚生労働省ホームページ。
(*12)ディルク・ニーダー「Privat edisability products-個人向け就業不能保険」『アクチュアリージャーナル』第78号、2011年12月。

小林雅史
ニッセイ基礎研究所 保険研究部

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