需要面からみた影響
女性、高齢者の労働参加拡大によって供給力の低下に歯止めをかけることは可能と考えられるが、その一方で潜在成長率の上昇に実際の需要が追いつくのかという問題がある。
日本経済はバブル崩壊後、長期にわたり低迷が続いてきたが、その一因には需要不足の問題がある。実質雇用者報酬は1990年代半ばまでは増加を続けてきたが、その後はほとんど伸びておらず、このことが個人消費、実質GDPの低迷につながっている。
この結果、GDPギャップはバブル崩壊以降、ほぼ一貫してマイナスとなっており、日本経済は慢性的に需要不足の状態に陥っている。日本経済再生の鍵は供給力の向上とともに、家計の所得増加を通じた個人消費の拡大を実現することにより、潜在成長率の上昇と需要不足の解消を両立させることである。
女性、高齢者の労働参加が進んだ場合、これまで以上に雇用の非正規化が進む可能性が高い。
年齢階級別の非正規雇用比率が過去5年間と同じペースで上昇した場合、全体の労働力率がどの程度上昇するのかを試算すると、年齢階級毎の非正規化の進展に非正規雇用比率の高い女性、高齢者の構成比が高まる影響が加わり、非正規雇用比率の上昇ペースが加速し、2014年の37.4%から2025年には44.4%になるという結果となった。
女性、高齢者の労働参加拡大に伴う雇用の非正規化自体は必ずしも悲観的に捉える必要はないが、問題となるのは、男女間、正規・非正規間の賃金水準の格差である。
男女別、雇用形態別の賃金水準を年収ベースで比較すると、男性・正社員を100とした場合、女性・正社員が70、男性・非正社員が38、女性・非正社員が26となる。
年収ベースで比較した場合には正社員と非正社員の労働時間による違いが大きく影響しているが、時間当たり賃金でみても、男性・正社員100に対して、女性・正社員が76、男性・非正社員が59、女性・非正社員が50とかなりの格差があることがわかる[図表3]。
今後、女性、高齢者の労働力率が高まった場合、非正規比率が大きく高まることにより、労働者の平均賃金水準が下がることが見込まれる。ここで、男女別、年齢階級別、雇用形態別の賃金水準が今後変わらないとした場合の労働者一人当たりの賃金水準を試算すると、2010年代後半は年平均で▲0.3%程度、それ以降は押し下げ幅が徐々に拡大し、2025年には▲0.6%となった[図表4]。
2025年までの年平均では▲0.4%となるが、そのうち時間当たり賃金の低下による部分が▲0.2%、労働時間の減少による部分が▲0.2%である。この結果、2025年の一人当たり平均の賃金水準は現在よりも▲4.5%低くなってしまう。