労働供給力の拡大と賃金上昇による消費拡大の両立

ニッセイ基礎研究所の中期経済見通しでは、女性、高齢者の労働参加拡大が進むことにより供給力の急低下に歯止めがかかるとともに、企業部門の改善が家計部門に波及することにより賃上げ率が高まりそれが個人消費の回復につながるという経済の好循環が一定程度実現することを想定している。

具体的には、今後10年間の実質雇用者報酬の伸びは過去10年平均の0.4%から1.1%へと高まると予想している[図表5]。

内訳をみると、女性、高齢者の労働参加拡大を見込んでいるものの労働力人口は減少が避けられないため、雇用者数の伸びは小幅ながらマイナス(年平均で▲0.0%)となる。

一方、一人当たり賃金(実質)の伸びは過去10年平均の▲0.0%から1.1%へと大きく高まる。すなわち、雇用者報酬の増加はすべて一人当たり賃金の伸びによることになる。なお、今後10年間の物価上昇率は平均で1%台前半を予想しており、名目の一人当たり賃金の伸びは平均で2.2%となる。

女性、高齢者の労働参加拡大による賃金低下圧力を考えると、名目2%程度、実質1%程度の賃上げを実現することはそれほど容易ではない。男女間、正規・非正規間の賃金格差の是正を進めながら労働生産性に応じた労働者一人当たり、時間当たり賃金の上昇を図ることが重要だ。

日本経済再生の鍵は女性、高齢者の労働参加拡大を通じて量的な労働供給力を高めるとともに、労働生産性に見合った賃上げを実現することにより家計の購買力を引き上げ、需要の拡大につなげていくことである。供給面、需要面双方の取組みを同時に進めていくことが求められる。

斎藤太郎
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

【関連記事】
日本経済再生の鍵-女性、高齢者の労働参加拡大と賃金上昇が必須の条件
2015年10-12月期の実質GDP~前期比▲0.6%(年率▲2.2%)を予測
消費者物価(全国15年12月)~コアCPI上昇率は再びマイナスへ
鉱工業生産15年12月~3四半期ぶりの増産だが、回復にはほど遠い
うるう年で押し上げられる2月の個人消費