「企業買収」と聞くとどんな想像を抱くだろうか。米製薬大手のファイザーによる、同業でアイルランドに拠点を持つアラガンの取得のような、巨大買収かもしれない。または昨今話題になっている、国内電器大手のシャープ <6753> を巡る、鴻海精密工業と産業革新機構が繰り広げる、取得合戦かもしれない。いずれにしても、買収先の技術やブランドを取り込むことで、相乗効果を狙っていると、通常は、みられている。

しかし、M&Aはそれほど単純なものでもない。中には、中小企業の所有者や社長が、後継者の不在を理由に、他社に売却したり、合併・買収を節税に活かしたりすることもあるからだ。実際にM&Aを行うワケはさまざまなはずだが、今回は、M&Aを活かした企業の節税策について解説する。

「M&Aで節税」のカラクリ―黒字を赤字企業の繰越欠損金と相殺

M&Aと節税の接点はそれではどこにあるのだろうか。それは、買収先の企業の繰越欠損金の引き継ぎだ。より細かく言えば、買収先の企業に過去の繰越欠損金が積み上がっている場合には、その欠損金を自社に計上できることで、黒字であれば利益額を圧縮できることになる。つまり、課税の対象になる金額を小さくし、節税効果が得られるのだ。

ちなみに、欠損金とは、いわゆる赤字のことだ。例えば、今期に赤字が出たとすれば、次の決算期以降に黒字が出た場合には、赤字(欠損金)と相殺できるというルールがある。この翌期以降に黒字と相殺できる赤字を「繰越欠損金」というのだ。

別の言い方をすれば、黒字の買い手企業が繰越欠損金を持っている売り手企業を買収することによって、その繰越欠損金を引き継ぎ、買収先企業の繰越欠損金と自社の黒字を相殺して、税負担を軽くできるのだ。

このように、一般的にはM&Aでは買い手企業が売り手企業を探す際に、技術力やブランドを買うことによってどのようなシナジー効果が生まれるのかというビジネス上の展開を視野に入れることが多いが、税務の観点から節税効果を得られる企業を探すということも重要なのである。

M&A先の繰越欠損金の引き継ぎには条件も

ただし、この繰越欠損金は赤字企業を買収すれば常に引き継げるというわけではない。その点には注意が必要だろう。繰越欠損金の引き継ぎにかつては、大きな制限は設けられていなかったが、2001年度の税制改正によって、租税回避に防止規定が設けられているからだ。そのため、M&Aの際には、繰越欠損金が引き継げるのかどうかのチェックが欠かせなくなっているのだ。

他方で、繰越欠損金を引き継ぐための条件もいくつかる。その一つが、繰越欠損金が過去7年以内に発生しているものであるということだ。M&Aの場合に限らず、税制上、赤字を繰越すことができるのは現時点では7年までと決まっており、8年以上前に繰り越しできる赤字が出ていても、節税効果は得られないのである。

もう一つの条件が、M&Aがグループ内の組織再編でなければならないということだ。買収によって、買収先企業の株式100%を取得し完全子会社にするか、もしくは、5年以上前から売り手企業の株式の50%以上を取得しており、かつ8割以上の従業員を引き続き雇用し続けなければ、繰越欠損金を引き継げないのだ。さらに、M&Aを行う両企業の売上高や従業員数、資本金の額等の規模が5倍以上の開きがない場合に限られる。

M&Aによる節税いは国税も注視

もちろん、繰越欠損金の引き継ぎにこうした条件が課されることになった経緯もある。というのもかつては、M&Aを活用した繰越欠損金の引き継ぎは広く行われていた。

しかし、こうした条件がなければ、赤字が溜まってしまって事実上事業活動をしていない企業を格安で買収することによって、税負担を軽減させるということが出来てしまう。見方によっては、いわば「ズル」のような形で、税負担を軽減する企業が現れ、公平性を損ねないように国税庁がさまざまな条件を設けているとみられている。

繰越欠損金の引き継ぎにこうした条件が付いている理由は、企業による租税回避行為を防止するためだ。例えば、こうした条件がなければ、赤字が溜まってしまって事実上事業活動をしていない企業を格安で買収することによって、税負担を軽減させるということが出来てしまう。こうしたいわばズルのような形で、税負担を軽減する企業が現れないように国税庁が繰越欠損金の引き継ぎにさまざまな条件を設けているのである。

つまり、節税効果も鑑みてM&Aを計画する場合には、繰越欠損金の引き継ぎに制限がかからないかどうかを、税理士などの専門家に相談し、確認しておかなければならないといえるだろう。その点では、節税効果が得られるという理由だけでM&Aを行うのではなく、総合的な判断が必要だと言えそうだ。(ZUU online 編集部)

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