デフレ,日銀,物価
(写真=PIXTA)

1月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比0.0%(コンセンサス0.0%程度)と、12月(同+0.1%)までの2ヶ月連続の上昇が止まった。

確かに、これまでの円安とパートタイマーを中心とする賃金上昇などによるコストプッシュ(価格転嫁)の進展が、物価の押し上げに働いている。

コア消費者物価指数が0%近傍なのは原油価格の下落の影響が強いからで、コアコア消費者物価指数(除く食料及びエネルギー)は、1月も前年同月比0.7%(12月同+0.8%)としっかりとした上昇となっている。

問題なのは2%の物価上昇の日銀の目標に向けた加速感が感じられず、コアコアでも上昇にピークアウト感があることだ。

原油価格が安定しても物価上昇は遅れる

消費税率引き上げにより下押しを受けた2014年の弱い実質GDP成長率(0%)の後も、2015年は+0.4%と潜在成長率なみの水準にとどまってしまった。

2016年は、遅れてしまったが政府と日銀の政策効果がこれから出てくること、原油価格の下落による交易条件の大幅な改善が企業収益を支えること、労働市場の引き締まりにより総賃金の拡大が強いこと、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が徐々に出てくること、そしてグローバルな景気後退とならず円高が持続的にならないことを前提にすれば、+0.5%程度である潜在成長率はまだ上回ると考える。

しかし、2014年に潜在成長率を下回り、2015年が潜在成長率なみ、そして2016年が潜在成長率を若干上回る程度にとどまるとみられ、需要超過幅の拡大のペースは明らかに遅れており、原油価格が安定したとしても、物価上昇のペースは遅れるだろう。

いまだ残る消費者心理の萎縮

消費税率引き上げによる消費者心理の萎縮がまだ残っている中で、食料品を中心とした値上げが続き、更に2017年4月に再度の消費税率引き上げが控えていることで、消費者は防衛的になってしまっているようだ。

「消費税が景気を下押しする効果を持ち、かつ、そのマイナス効果が物価にも下押し圧力をかける」との原田日銀審議委員の指摘は正しいだろう。

さらに、2015年後半の原油価格の更なる下落の影響が、この1月から明確に現れている。

2016年の半ばまでは、コア消費者物価指数の前年同月比はマイナスに沈むと考えられる。年央以降に原油価格が緩やかに上昇したとしても、年末までに+0.5%程度まで戻るのが精一杯だろう。

ポジティブに考えれば、2016年は、物価上昇が賃金上昇に若干遅れることによる実質賃金の上昇が消費活動を刺激するという、2014・5年とは逆の展開になっていくと考えられる。

しかし、そのような需要の拡大が、物価上昇に加速感をもたらすにはかなりの時間がかかる。

もともと困難であるとみられたが、日銀が目指している2017年度前半の2%の物価目標の達成は不可能となり、再び達成時期の先送りが検討されるだろう。

消費税率引き上げがこれほどのデフレ圧力をかけることは政府・日銀の想定外であり、2017年4月の消費税率引き上げの延期の確率は10%から30%へ高まったと考える。

2月の東京都区部のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比-0.1%(コンセンサス-0.2%程度)と、1月の-0.1%に続き、二ヶ月連続の下落となった。

原油価格の下落の影響を受けたエネルギー以外にも、需要の弱さに起因する下落圧力が確認でき、日銀の物価シナリオのリスクが高まっている。

上昇を支えているのは、外国人観光客の増加による宿泊料の上昇と、これまでの円安の影響による外国パック旅行の上昇であり、その他の上昇圧力は弱まっているように見える。

消費税率引き上げ延期がメインシナリオに?

日銀の金融緩和だけで物価を押し上げるという純粋マネタリストアプローチは明らかに限界にきており、財政拡大による需要追加と金融緩和の継続というより現実的なポリシーミックスアプローチに変化する必要性が認識されつつある。

週末のG20で通貨切下げ競争が警戒され、5月にサミットが日本で開催されることを考えても、円安誘導と受け取られかねない追加金融緩和はやりにくい環境だ。

3月末に2016年度の政府予算が国会を通過した後、6月1日の通常国会の会期末まで、3.5兆円程度であった2015年度補正予算を上回る規模(理論的には最近のネットの国内資金需要の縮小分である15兆円程度の規模が必要)の経済対策が実施される可能性が高まっている。

5月にまとめるとみられる成長戦略の中長期計画「ニッポン1億総活躍プラン」に沿った政策が盛り込まれるだろう。

経済対策が実施されない、または小規模すぎて効果が不十分であり、景気腰折れのリスクが大きくなれば、消費税率引き上げの延期がメインシナリオになってしまうだろう。

2014年11月18日に安倍首相が消費税率引き上げの見送りを決めた時の日経平均は17000円程度であったことを考えると、それを下回る現在の株価の水準は、何の経済対策も行わなければ、消費税率引き上げに耐えるだけの経済状態ではないことを示しているのかもしれない。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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