財政赤字,企業貯蓄率
(写真=Thinkstock/Getty Images)

深刻な高齢化で、強い緊縮政策をとらないと日本はもはや財政を維持することができないという固定観念が、この20年間の日本経済の停滞の一因になっていたと考えられる。

日本の財政赤字の問題は、高齢化ではなく、企業活動の弱さからくる内需低迷とデフレの長期化と表裏一体の関係にある。日本経済はアベノミクスによりこれまでとは違う景気回復の局面に入っており、財政再建についても過去の考え方は変えるべき時にきている。

過去の考え方は、日本の財政赤字は深刻であり景気回復が進行しても増税をしないと財政再建は不可能ということであった。

しかし、今回の景気回復とともに財政赤字は大きく縮小してきている。財政赤字の名目GDP比は2011年の-8%程度のピークから低下し、2015年には-4%程度まで半減している。どのような財政収支を改善するメカニズムが働き始めているのであろうか。

財政収支を改善するメカニズムとは

企業活動の弱さによる内需低迷とデフレの長期化は、税収の減少などを通して、財政収支も悪化させてきたと考えられる。

日銀資金循環統計がさかのぼれる1981年から企業貯蓄率と財政収支を同一のチャートで確認すると、ほぼ完全にカウンターシクリカル(逆相関)の動きになっていることがわかる。どちらかが上がるとどちらかが下がる関係にある。

景気の振幅の原因となる企業活動の強弱を示す企業貯蓄率(上昇=景気悪化、低下=景気回復)が、財政収支に大きな影響を与えている可能性がある。

景気が悪くなると税収が落ちることにより、自動的に財政が緩和的になり景気を支える力が生まれる。景気が良くなると税収が増えることにより、自動的に財政が引き締め的になり景気を抑制する力が生まれる。即ち、財政の景気自動安定化装置が作動する。

政治家が景気の状況を敏感にとらえ、財政支出を極めてうまく調整してきたとは考えられないため、強いカウンターシクリカルの動きは、この税収の振れを通した景気自動安定化装置が威力を発揮したのだろう。

景気の振れに左右されやすい所得税と法人税などの直接税が中心の税体系であるため、税収の振れは大きいが、逆に財政の景気自動安定化装置が強いとも考えられる。もちろん、景気が悪いときに財政による景気対策が打たれることによる影響もあろう。

ミクロではなくマクロで捉える必要性

もし財政健全化のため税収を安定化させることに注力し、この財政の自動安定化装置の役割を減じてしまえば、企業活動が弱く企業貯蓄率が上昇した分、総需要が破壊され、雇用・所得環境の悪化を通して、家計の貯蓄率が低下し、家計の富が奪われることになってしまう。

税収の振れを小さくすることは、景気の振れを逆に大きくするトレードオフが存在する。消費税は景気動向に関わらずほぼ一定の税収が見込めるため、安定財源と言われる。財政の安定化のため、より安定的な財源を確保すべきであるという意見は耳に心地がよい。

しかし、その裏にある景気の振れが大きくなるリスクが説明されることはあまりない。経済の安定的な成長のためには、その時の経済状況(企業貯蓄率の水準)に応じて、十分な財政赤字が必要であると考えられる。

これまでの日本は、財政が赤字はすべからく「悪い」というミクロ・会計として考えられすぎた一方で、総需要の安定的な拡大のためには財政の赤字は「必要」であるというマクロで考えることを怠っていたと言える。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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