はじめに
日本生命保険(相)とニッセイ・リース(株)は、取引先企業を対象に「ニッセイ景況アンケート調査 2015 年度下期調査(2016 年1月実施、回答企業数3994社)」を実施し、(株)ニッセイ基礎研究所が集計・分析を行った。
調査は定例の景況感に関する調査と、時々の企業経営の課題に関する特別調査から成っている。今回の特別調査は「人手不足時代の企業経営」を取り上げ、企業における人員の過不足状況や今後の対応方針について調査している。定例調査項目を含む調査全体については、「ニッセイ景況アンケート調査結果-2015年度下期調査」を御覧いただきたい。
以下では特別調査の概要をご紹介する。調査では、多くの企業が現在人手不足を感じており、将来も同じような状況が続くと考えていることが確認され、スキル・職種別の過不足状況は業種によって大きな差があること、省力化投資に関る課題が製造業と非製造業では大きく異なること、などがわかった。
調査の背景
1990年代初頭にバブル景気が崩壊した後、日本経済は低迷が続き、企業は人員の過剰に悩まされてきた。しかし、ここ数年で状況は大きく変わっている。失業率は2016年1月には3.2%に低下、有効求人倍率は1.28倍に上昇して1991年12月の1.31倍以来24年ぶりの高い水準となった(図表1)。
雇用情勢が改善したのは、景気回復が大きな要因だが、日本の人口構造影響も大きい。このため、これから長期にわたって働く世代の人口の減少が続くことが予想されており、人手不足が続きやすい状況にある。
調査結果
1|各過半数の企業が人手不足を感じている
自社の人員の過不足状況について、現状は「全体に不足している」と回答した企業は11.9%で、「一部の人材・職種で不足」と回答した企業は40.7%だった(図表2)。
人手不足を感じている企業の割合(「全体に不足」と「一部の人材・職種で不足」の合計)は52.6%で半数以上だった。一方「全体に過剰である」と回答した企業は1.1%で、「一部の人材・職種で過剰」と回答した企業の4.8%と合わせても、人員の過剰を感じている企業は5.9%に過ぎない。
人手不足を感じている企業の割合は、製造業の47.7%に対し、非製造業では55.8%で非製造業の方が人手不足を感じている企業の割合が高い。
3~5年後の見通しについての回答は、現状についての回答と大きな差は見られない。全体的に無回答の割合が若干高まる中で、過剰という回答が減少し、不足の中で「一部の人材・職種で不足」が減少して「全体に不足」が増える傾向が見られる。企業は現在の人手不足の状況が一時的なものではなく、持続的なものと考えていることがうかがえる。
スキルや職種別で不足感の強いのは、「新卒など若手」と「中堅人材」だった(図表3)。「ベテラン」は不足と感じている企業と過剰と感じている企業があり、相対的には人材の余裕がある。「パート・アルバイト」の過剰感は「ベテラン」の過剰感に比べてはるかに少ないが、不足感はほぼ同じ程度である。この点については、次で詳しく述べる。
人手不足への対応方針としては、「業務の見直しによる効率化」(46.0%)をあげた企業が最も多く、次いで「求人活動の強化」(35.7%)、「処遇の改善」(27.6%)と続いている。
2|パート・アルバイトの不足に悩む飲食業
毎月勤労統計調査で見ると、フルタイムの一般労働者に比べてパートタイム労働者の賃金の上昇が顕著であるなど、マスコミ報道などでは、いわゆる正社員にくらべてパートやアルバイトなどの非正規職員の逼迫が伝えられている。しかし本調査では、「パート・アルバイト」の不足感は高くない。このような結果が得られたのは、パートやアルバイトへの依存度が業種によって大きく違うことが原因とみられる。
業種別にみると、パート・アルバイトの不足を感じている企業の割合は、非製造業では(図表4)「飲食」が74.2%、「小売」が47.7%、製造業では「食品」が64.8%となっており、一部に非常にパート・アルバイト人材の不足感の強い業種がある。
現在の人員の過不足状況についても、「飲食」では70.9%「小売」も63.6%、が不足を感じている。「建設・設備工事」でも66.1%が人手不足と感じているが、パート・アルバイトの不足を感じている企業は少ない。建設・設備では特殊な技能を持った人材の不足が人手不足の原因であるためと見られる。
労働力調査の業種分類は本調査とは少し異なっているが、「飲食店」「小売業」「食料品製造業」では、雇用者の中でパート・アルバイトなどの「非正規の職員・従業員」が「正規の職員・従業員」を上回っている。パートやアルバイトを大量に雇用している企業では、採用が困難になっていて賃金上昇につながっているものと見られる。