6|中小企業の人手不足

人員が不足している原因は、全体でみると、「業容が拡大している」、「新卒採用が困難」、「中途採用が困難」という3つの理由が4割弱でほぼ同じ程度だが、企業規模別には3つの理由の相対的な関係はかなり異なっている(図表8)。

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大企業は、52.3%が「業容が拡大している」ことを人手不足の原因としてあげていて、「新卒採用が困難」(39.6%)、「中途採用が困難」(33.1%)を大きく上回っている。一方中小企業では、「業容が拡大している」ことを人手不足の理由としてあげたのは33.6%で、「中途採用が困難」の40.0%、「新卒採用が困難」の37.3%を下回っている。

従業員数の不足感は企業規模が大きいほど強い傾向があるにも関わらず、スキル・職種別の人材過不足状況では「新卒など若手」の不足感は企業規模が小さいほど強い傾向がある。大企業では、企業規模の拡大や新規事業への進出が、人手不足の大きな原因になっていると見られるのに対して、中小企業では退職者の補充の困難さが増しているものと見られる。

おわりに

2015年の国勢調査では1920年に調査を開始して以来初めて日本の人口が減少したが、今後も人口の減少が続くことが見込まれる。経済活動の中心となる15歳~64歳までの生産年齢人口は、総人口の減少を上回る速度で減少し続けるので、人手不足問題への対応は企業経営の大きな課題として残るだろう。

新卒や中途採用は既に困難になってきており、大企業では事業規模を拡大したり、新規事業に進出したりする際には、必要な人材の確保が今後ますます困難になっていくものと予想される。

こうした中で、これまで企業の中で必ずしも十分に能力が発揮されてこなかった、女性や高齢者の活躍推進が今後は大きな課題となっていくだろう。

本稿では詳しく触れることができなかったが、業務見直しによって働き方を効率化したり、従業員が抱える子育てや年齢等の多様事情に配慮した多様で柔軟な働き方を提供したりするということが、良質な従業員を確保するために重要性を増していくものと考える。

櫨(はじ)浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所 専務理事

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