3|処遇改善の中心は賃金の引き上げ
人手不足対策として処遇改善を行なう場合の具体策としては、「給与引き上げ」をあげた企業が53.3%で、「働き方の多様化・柔軟化」が49.6%、次いで「教育・研修の充実」37.8%となっている。一見この3つの具体策に対する企業の対応は大きな差が無いように見えるが、実際の重要性にはかなりの差があるとみられる(図表5)。
人手不足への主な対応方針として「処遇の改善」をあげた企業だけを取り出してみると、賃金の引き上げは81.4%となっていて、調査企業全体での回答割合53.3%を大きく上回っている。処遇の改善を主要な対応方針として回答した企業では、具体的な手段の全てで回答率が調査企業全体の回答率を上回っている。
しかし、その差は給与の引き上げ以外は5%ポイント未満であり、給与引き上げが28.1%ポイントもの差がある点で突出している。処遇改善の対応策は多様だが、人手不足対策として効果が期待できる方法を具体的に検討すると、やはり給与の引き上げが中心的な手法となるということを意味しているのではないだろうか。
近年の日本経済では、人手不足が叫ばれるようになったにも関わらず、賃金の上昇は非常に緩やかで、労働需給のひっ迫が賃上げに結び付き難くなっていることは確かだ。しかし、人手不足が長期に続いていけば、より多くの企業が賃金の引き上げによって人手を確保しようとする可能性が高いことを示唆していると考える。
4|省力化の障害
人手不足への対応として「省力化」の重要性は、製造業と非製造業で大きな違いが見える。対応方針として「省力化」をあげた企業は、製造業では28.5%と高いが、非製造業では15.9%に過ぎない。この原因は、非製造業では機械化などによって必要な人員の削減を行うことが難しい場合が多いことが原因とみられる。
省力化を進める際の障害として、非製造業では「顧客サービスの低下」を41.7%の企業があげているのに対して、製造業では21.2%に過ぎない(図表6)。非製造業では、対応方針として「省力化」をあげた企業だけをとってみても、「顧客サービスの低下」を障害として指摘した企業は46.1%にのぼっており、非製造業ではサービスの質を落とさずに省力化を行うことが難しいと感じられているようだ。
非製造業に比べて省力化投資に前向きな製造業では、省力化を進める際の障害として、「効果が不確実である」、「専門的な人材の不足」をあげる企業が多い。また非製造業では15.5%に過ぎない「省力化投資の資金負担」が28.1%という高い割合となっている。製造業で、対応方針として「省力化」をあげた企業だけでは40.9%が「資金負担」を障害として指摘しており、企業の経済的な負担が大きいことを物語っている。
定例調査では企業から見た金融機関の貸出態度を調査しているが、これによると企業は金融機関の貸出態度は極めて積極的と判断しており、借入れの難易ではなく省力化投資の費用対効果の問題であると考えられる。
省力化投資の意欲はあるものの、具体的な計画の策定を社内人材では行うことができず、効果的な投資方法が分からない、投資が十分な効果を生むのかどうか予測できないといったことは、省力化を進める上で大きな障害となっているようだ。
設備メーカーや専門家が、投資の費用対効果を試算したり、個々の企業の実情に合った省力化投資のプラン作りを提案したりすることによって、省力化投資を考えている企業のノウハウや人材の不足を補うことが投資促進に役立つ可能性が高いことを示唆していると考えられる。
5|海外人材の登用
日本では今後長期にわたって、総人口の減少と生産年齢人口の減少が続くと予想されることに対して、移民を受け入れるなど海外の人材を活用することも各所で提言されている。
しかし、本アンケート調査では、人手不足に対応する方針として、「国内の海外人材登用」は5.7%、「事業の海外移転」は1.4%の企業があげたにすぎず、日本国内にいる外国人材の活用を考えている企業も、労働力を求めて海外に移転することを考えている企業も少ないことが分かる。
大きな原因となっているのは、「言葉の違い」(全産業60.2%)や「文化や習慣の違い」(同59.1%)である(図表7)。法律などによる規制や既存の人事制度との調査といった具体的な問題の回答率は、この二つの要因を大幅に下回る。この傾向は人手不足に対応する方針として、内外の外国人人材の登用を考えて入る企業でもほとんど変わらない。
対応方針として「国内の海外人材登用」をあげた企業の中でも、「言葉の違い」を指摘した企業は63.0%、「文化や習慣の違い」は65.6%だった。企業の多くが、海外人材の登用の入り口でのハードルが高いと感じていることを示唆している。