韓国,給付付き税額控除制度
(写真=PIXTA)

はじめに(*1)

韓国では税制による所得支援で勤労貧困層の勤労インセンティブを高めるとともに、所得を捕捉するインフラを構築し社会保険料負担の衡平性及び制度運営の効率性を高める目的で2008年1月1日から「勤労奨励税制」という名で給付付き税額控除制度を導入している。

勤労奨励税制(EITC:Earned Income Tax Credit)とは、ひとことで言うと「低所得者がより働くことを支援するための補助金」のことである。日本では一般レベルではまだなじみのない制度だが、経済学者を中心に知られており、1975年にアメリカで最初に導入され、現在ではイギリス、カナダ、フランス、スウェーデン、オランダ、韓国など多数の国で実施されており、アメリカでは導入から四半世紀以上経過している。

給付付き税額控除といっても、日本では同様の制度がないため、どのような制度であるかぱっとしない人が多いと思われる。鎌倉(2010)は給付付き税額控除を次のように説明している。

「給付付き税額控除とは、文字通り、社会保障給付と税額控除が一体化した仕組みである。具体的には、所得税の納税者に対しては税額控除を与え、控除しきれない者や課税最低限以下の者に対しては現金給付を行うというものである。その考え方の源泉は、フリードマンの負の所得税に求められる。」(*2)

韓国版給付付き税額控除制度である勤労奨励税制は、職を持っていても所得が少なく、経済的に苦しい状況に追い込まれている勤労貧困層へ勤労所得別に算定されている奨励金を支給することで勤労インセンティブを高め、一定の実質所得を支援するための勤労連携型所得支援制度である。

既存の公的扶助を中心とする福祉政策(welfare)が勤労有無に関係なく一定水準までの所得を補助していることに比べ、勤労奨励税制は働けば働くほど総所得が増えるように補助金を支給する制度(workfare)である。

つまり、勤労貧困層の勤労活動に経済的支援をすることにより、脱貧困や所得格差の緩和だけでなく、福祉給付に対する依存から労働市場への参加への誘引をするという目的も持った制度なのである。

-----------------------------
(*1)本稿は、金明中(2011)「韓国における勤労奨励税制(EITC)の現況」『ニッセイ基礎研REPORT』2011/10/24を最新の内容に合わせて修正・補完したものである。
(*2)鎌倉治子(2010)「諸外国の給付付き税額控除の概要」調査と情報-ISSUEBRIEF-No.678から引用。
-----------------------------