今月のテーマ:原油安
原油安が大きく進んでいます。年初から下落幅を加速させて原油の国際指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエイト)は、先月20日には1バレル26ドル台の値を付けました。
2014年7月に100ドル台で推移していた頃に比べ、わずか1年半でほぼ4分の1まで値を下げました。この急激な原油安は金融市場にも大きな混乱をもたらし、株式・為替市場においてはリスク回避行動が顕著に見られ、株安・円高の方向で推移しています。
先月発表された2015年の貿易収支は2兆8222億円となり、赤字幅は前年の5分の1に縮小し、12月の単月では1402億円の黒字となっています。これは原油安による輸入額の減少の影響が大きいからであり、足元の原油価格の一段安により黒字幅はさらに拡大し、2016年は通年で大幅な黒字に転じる可能性が考えられます。
貿易収支の改善に加え旅行収支の黒字幅拡大もあり、4年間続いた円安・ドル高の流れを反転させる原動力となる可能性があります。また、この原油安が物価全体を押し下げて日銀の物価目標である上昇率2%の達成を遠ざけつつあることから、日銀による更なる追加緩和の実施期待が非常に高まっています。
2014年半ばから始まった一連の原油安は、中国経済の減速とシェール革命によるものでしたが、昨年後半からのさらなる原油価格下落の要因は供給面に起因する部分が大きく、米国とイランが原油の輸出を再開したことによるものであると考えられます。
この急激な原油安により資源国が大打撃を受けており、ベネズエラは「経済緊急事態」を宣言し、ロシアは通貨ルーブルが下落し続け、財政赤字は拡大し、さらには欧米からの経済制裁も加わりデフォルトの危機に直面しています。
サウジアラビアは財政赤字の拡大に起因する政府支出の大幅削減を余儀なくされ、民衆の不満から王政の崩壊が危惧され始めています。
ブラジルの国営石油会社のペトロブラスは負債総額が約15兆円(大半が米ドル建)あり、通貨のレアル安も加わり破綻リスクが高まっています。
スイスの資源メジャーのグレンコアや、アメリカの非鉄金属のフリーポートマクモランなども苦境に立たされており、2001年に破綻したエンロン級の企業破綻も現実味を帯びてきています。
これら資源国が原油高で稼いだ潤沢な資金も逆回転をし始め、金融市場はリスク回避的な動きが続いています。
中長期的に原油需要は減少 現価格がニューノーマル
過去において原油下落を理由に世界景気が後退したことは一度もなく、原油安は資源国から輸入国への富の移転となり、物価の上昇を抑制し一般民衆への恩恵は非常に大きく消費の拡大につながります。実際にインドでは原油安を背景としてインフレが鎮静化しそれに伴う利下げが奏功し、経済回復が鮮明になっています。
資源の大半を輸入に頼る日本にとって原油安のメリットは非常に大きく、様々な業種に恩恵ている消費税の再増税による負の効果を十分に打ち消す作用があるものと考えられます。
関連銘柄は、空運でJAL、ANAホールディングス。陸運でヤマトホールディングス、日本通運。タイヤ関連でブリヂストン、住友ゴム。塗料関連で日本ペイントホールディングス、関西ペイント。電炉関連で東京製鐵、大阪製鐵。
昨年12月にパリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)では、2020年以降の温暖化対策に参加する「パリ協定」を採択し、地球温暖化問題は一層重要な人類共通のテーマとして認識されました。これにより世界が一体となり温室効果ガスを排出する化石燃料の使用を大幅に減らす方向へ舵を切りました。
こうしたことから、今後はハイブリット車や電気自動車が世界中で急速に普及していき、発電所についても、原子力や太陽光・風力等にシフトすると考えられ、中長期的には原油の需要は経済とは無関係に減速していくと考えられます。現在おかれている原油の価格をニューノーマルとして捉えて世界経済を考えていく必要があると考えます。
IFA原田茂行氏
【プロフィール】
大和証券、SMBC日興証券、野村証券を経て株式会社アイ・パートナーズフィナンシャルに所属し、IFAとして独立。日本証券アナリスト協会検定会員、囲碁三段。(記事提供:
株主手帳
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