かつて石油業界はかつて欧米企業がほぼ独占的に生産してきた。しかし近年、ウォーレン・バフェット氏やロックフェラー家がエクソンモービル社の株を放出するなど、米国の投資家は石油産業に及び腰だ。対照的に覇権を狙っているのがサウジアラビアだ。国有企業上場の話が出るなど、勢いを増している。

新・セブンシスターズの台頭と米国石油業界の衰退

石油業界を独占してきた欧米企業・石油メジャーの代表的な7社は以前、「セブンシスターズ」と呼ばれた。その筆頭格がロックフェラー家創業のスタンダードオイル社だ。同社は百田尚樹著『海賊と呼ばれた男』(講談社)にも登場したので、ご存じの方も多いだろう。これらの旧石油メジャーによる石油生産量は、全世界の10%程度、埋蔵量に至っては3%程度にまで低下してしまった。

近年台頭しているのがサウジアラビアの国営企業サウジアラムコやマレーシアのペトロナスなどをはじめとした新・セブンシスターズである。彼らは世界の石油・ガス産出量と埋蔵量ともに3分の1を握っており、いまや旧石油メジャーよりもはるかに大きな存在感を放っているのである。

欧米企業の衰退原因の1つはそのコストの高さにある。石油1バレルあたりの生産コストは、英国では42~45ドル、米国では36ドルとされているのに対して、サウジアラビアやクウェートでは10ドル以下、ロシアでも17ドル程度と言われている。コスト面で太刀打ちできないため、苦戦を強いられているのである。

新勢力の中で今後の覇権を握るのは、このまま行けばやはりサウジアラムコだろう。理由は2つある。一つは、先述したようにコストの低さである。もう一つは埋蔵量の多さだ。2014年の時点で、全世界の原油埋蔵量1兆7000億バレルのうち、サウジアラビアは267億バレルとシェア15%を占めている。実は埋蔵量ランキングのトップはベネズエラの約300億バレルではあるが、この多くは重質油であるため高い生産コストが必要になると言われている。コストと埋蔵量という2つの観点から、サウジアラビアは強い競争力を持っていると言えるのである。

サウジアラビアに死角あり?

ここ数年の原油価格の下落の背景には、米国のシェールオイル増産があったとされる。米国の原油生産は1970年をピークに減り続けていたが2008年を境に増産に転じていた。現在米国が生産している原油の大半が、シェールオイルなど非従来型の産油形態だ。

シェールオイルの生産は一般に、稼働の年に半減、さらに翌年には4分の1程度減るとされている。しかしデータを見る限り減産していない。これは生産効率を高めるなどの措置が功を奏したとみられる。とはいえそれもいつまで続くか分からない。

シェールガスの生産も本格化をあわせて「シェール革命」などともてはやされたが、シェールガス・オイルの開発現場では環境に対していくつかの懸念が指摘されるなど、一時もてはやされたほどのインパクトが失われつつある。今後、サウジなどの産油国が思い切って価格を引き下げるなどすれば、シェールの価格優位性が失われる、米国は戦略の見直しを迫られることになるだろう。

とはいえ、このところの原油価格の下落がサウジアラビアにとって大きな痛手であることも間違いない。2015年には米国の格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が原油価格の下落による財政悪化を理由として、サウジの格付けを引き下げている。

財政悪化の補てんを行うために、これまで国営企業だったサウジアラムコの株式を公開する計画も出ている。だが原油価格下落の引き金となったシェールオイルとの競争によっては、今後もサウジアラビアの財政悪化に歯止めがきかないという可能性も十分にある。

原油市場の覇権を渡したくないサウジと、シェールで対抗する米国。エネルギーの乏しい日本からは、両国を中心とした争い注視し続ける必要がありそうだ。(ZUU online編集部)

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)