技術革新と資本主義
(写真=PIXTA)

スイスで1月に行われた、ダボス会議。経済の行方を占う上で非常に注目され、世界中のVIPが集まるその会議で注目を集めたのが「テクノロジー」だ。先行きに不透明感の漂う経済において、フロンティアを開拓する原動力になるとみなされる一方で、社会を不安定化させる懸念もささやかれており、さまざまな議論を呼び起こしているのだ。

著しい変化と進歩の目立つ技術に注目すれば、グローバル規模の企業の主戦場であることがわかる。従来型産業における、新興国の供給力拡大を目の当たりにして、先端技術面を中心に競争力優位の確保に躍起となっているからだ。

ただ、技術進歩そのものは、経済や産業にとっては、より根源的な変化を引き起こすとみられており、明るい未来を予見する声もあれば、暗い未来、あるいはディストピアの到来を予想する声もある。今回はその、テクノロジーがもたらすかもしれない未来の姿を覗き見たい。

第4次産業革命はどこまで進む?

最近、先進各国は特に「第4次産業革命」に注目している様子だ。今年のダボス会議でもメインテーマとなり盛んに議論されたが、象徴的な例の一つはドイツの「Industry 4.0」。機械化(第1次)、電力活用(第2次)、自動化(第3次)に次ぐ第4次の技術革命として、製造業を「インターネット」と「AI(人工知能)」で「スマート化」しようという動きが中心的な取り組みとなっている。

ほかにも、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック社)が「インダストリアルインターネット」と銘打って同様の方向を目指しているほか、Google、Appleらがいわゆるビッグデータを活用して製造過程のイノベーションを引き起こすのではないかとみられている。加えて、産業用ロボットを生産するファナック <6954> は米ネットワーク機器大手のシスコシステムズと提携して、ほぼ完全に自動化された工場の実現を支援させる取り組みを進めている。

さらに、第4次産業革命については、その経済効果の大きさも無視できない。一部では、ダボス会議開催の地となるスイスだけでも、最大限に活用すれば、2025年までに約1兆7500億円の経済効果が見込まれるとささやかれている。

いずれにしても、先端的な企業の取り組みに共通しているのは、デジタル化と、IoT(Internet of Things)あるいはIoE(Internet of Everything)と呼ばれる、技術革新。具体的には、小型かつ高性能なセンサーをさまざまな場所に設置して収集したデータを分析し、活用するアプローチだ。さらには、製造に限らず、サービス、流通、金融などにも応用され、社会の隅々へ浸透するとみられている。

ビル・エモットの予見が実現へ

文明評論家たるリフキンの定義によれば、IoTとは全てのモノがネットワークで接続されることに留まらず、「コミュニケーション、エネルギー源(グリーン電力)、輸送手段の各面を含む統合されたグローバル・ネットワーク」だ。「核」となるネットワークに、あらゆる人間と機械が相互につながり、社会や経済についての情報を、誰もがシェアできるようになるという。ユートピアめいたそんな未来の経済増を描く人も確かに存在する。

また、リフキンが言うIoTについては、ビル・エモットが予測していた「ユビキタス社会」を想起させるが、今や、予想の範囲をはるかに超えて、日常に顕現しつつあるということだろう。すでに音楽、動画、アプリケーションなどを「クラウド」で共有でき、ビッグデータの活用、配車サービス「ウーバー」や各種シェアリング・サービスなど新しい「スマート・ビジネス」の登場さえ、リフキンは指摘していたのだ。

IoTを通じて、生活も社会も大きく利便性を向上させたバラ色の未来が描けるが、資本主義の再生をもたらす鍵の一つとなることでもある。現に、これらICT関連技術の開発・利活用を巡る業界や学界は熾烈な競争の渦中にあり、経済を先導する役割を強めてゆくのではないかと期待する向きもある。

テクノロジストはディストピアへの先導者か?

テクノロジーはオモテの顔として、経済環境の刷新を期待される一方で、経済活動そのものを行う個人に対しては、重要な疑問を投げかける。

リフキンのコンセプト「限界費用ゼロ」がここでも重要だ。簡単に言えば、モノやサービスを1単位を追加で生み出すコストが限りなくゼロに近づき、モノやサービスの多くはタダ同然になることを主張するが、問題は別にある。つまり、急激な価格低下にさらされる産業分野では、利潤確保も容易でなくなってしまうことだ。

例えば、電話会社がかつて直面した困難にあるように、商品差別化による創業者利益の確保やユーザーの「囲い込み」などを通じて生き残りを図ものの、それも時間とともにますます困難化。同様の結果が製造、エネルギー、流通にまで広がってしまえば、「資本主義」そのものが存亡の危機に立つことになる。

また、個人と職業と言う点からも、IoTやAIなどの最先端技術の実用化は人の社会生活を揺さぶる。1月のダボス会議で公表されたWEFのレポート「職の未来」も厳しい雇用喪失の試算を示している。全世界の労働人口の65%に当たる約19億人の労働者を抱える世界15カ国と地域で、2020年までに710万人が職を失い、200万人の新たな雇用が創出されるというものだ。

技術革新の果実の一つでもあり、現在、開発の進む汎用AIが実現すれば、職を奪い去るとみられており、大失業時代が到来したり、人の働く機会を消失させたりしてしまう「ディストピア」を主張する人も一部にいる。そうした延長線上の未来を構想すれば、テクノロジストは悪夢の未来への水先案内人だといえるし、「生きがい」を奪いかねないという側面も見えてくる。

だとすれば、社会における企業の形態、富の分配や生き甲斐の在り方を考えることなしに手放しでIoTを礼賛できはしないだろう。(岡本流萬)

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