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(写真=PIXTA)

熊本で大地震が発生したが、中国もさまざまな災害に見舞われている。とはいえ思い返すと、自然災害は2008年の四川大地震と2013年のやはり四川省での地震、たびたび起こった華南地区の洪水くらいだ。あとは人災ばかりだ。中国では自然より人間のほうがはるかに恐ろしい。

好意的に見れば、中国は神仏に頼らず人間の力を信頼してきたとも言える。古代の三皇五帝と呼ばれる帝王はみな治水に成功した指導者だ。中国はその恩恵によって形成された。しかし人には欲望がつきまとう。人が多過ぎる現代では、人間重視はかえって弊害が大きい。

熊本地震は中国でも報道されている

熊本の地震は中国でも関心を持って報道されている。新聞の第一報は国際面の下半分に掲載された。ちなみにトップは北朝鮮のミサイル発射実験失敗だった。見出しは「熊本強震、中国人の死傷者消息は無し」。内容は国営新華社通信からの転載である。

マグニチュード7.3の「本震」が発生した2日目の第二報では、裏一面の全面を地震の報道に当てた。見出しは「7.0級地震頻発、地球は活動期入りか?」。また土砂崩れの写真を大きく掲載し、20人の中国人旅行客が旅館に孤立した後、無事救出されたニュースが小さく出ている。

新華社記者による現地リポートもある。救助活動中の日赤社員へのインタビューなど、当り障りのない内容だ。全体として抑え気味のトーンで一貫しており、尖ったところはどこにもないが、これはこれで「日本には気を使っています。」との政治的主張のようにも見える。

九州は福岡がクルーズ船の手軽な寄港地として、湯布院が日本で最も“美麗”な温泉として、人気が上昇していた。また熊本関連では、日本フェアなどにたびたび登場した「くまモン」の知名度が意外に高い。関心が高まっていた矢先であった。

中国の災害報道 主席が現地訪問すると手厚くなる

中国国内災害報道の実例を挙げてみたい。2013年11月に発生した山東省・青島市の中国石油化工集団(シノペック)の油送管爆発事故である。国家安全生産監督管理総局の総括では、死者62人、負傷者136人、被害額は7億5000万元となっている。

筆者はこの事故処理を現地でつぶさに見ている。事故現場は取引先の倉庫会社から1キロも離れていない。深夜から8時間にわって油送管から油が漏れ、隣接する排水溝に浸み込んだ。そこで発生したガスに工事の火花が引火、広範囲にわたって爆発し道路がめくれ上がった。倉庫会社従業員(80人)の親族にも複数の死者が出た。とても100人以下の死者、ということはあり得そうにない。300人とも噂された。

事故の翌日シノペック社董事長が現地を訪れ、謝罪している。しかしそれだけだった。日本なら間違いなく袋だたきにあって辞任だろう。新聞の扱いもニュースバリューに比べ小さかった。

翌々日、習近平主席が視察に訪れると扱いは一変する。1面から3面までを割き、主席のリーダーシップを賞賛した。テレビは救助隊や病院スタッフの奮闘ぶりばかり伝えた。責任の追及については、主席もはっきり言及し、シノペック社、地方政府から10人以上の逮捕・拘束者が出た。

しかし後追い報道はなく、実際にどうなったかはわからない。事故現場は高いブロック塀で広範に囲われ、完全にシャットアウトされた。さらに警官が目を光らせていて、撮影はおろか立ち止まることもできなかった。

当時何らかの自粛があっただろうかと、思い返してみたが全く思い当たるフシはない。何しろマスコミは、被害者の訴えなど一切取り上げず、事故の悲惨さを十分伝えていない。当然、街の様子もテレビ番組も、普段と変わらなかった。

天津大爆発事故では番組自粛も

それから2年後の2015年8月、天津海開発区ではるかにスケールの大きい爆発事故が起った。国際貿易港近くの外国人も多い場所で、爆発の瞬間を見事に撮影されてしまい、どうにも隠しようがなかった。死者173人 被害額730億元で、公表死者数は青島の3倍、損害額は100倍である。

ここでも死亡者数は大幅に間引きされたと見られている。社会不安を抑えるためなら、数字は創作して構わない。そしてデマ、風説は厳しく取り締まる。常に変わらぬ対応だった。

しかしこのときは少し違った現象も見られた。事故の翌日、通常通りエンタメ番組を放映していた地元天津のテレビ局が非難にさらされた。被災者が苦しみにあえいでいるのに何事か、というわけだ。このような声が公になるのは初めてではないだろうか。

変化する現代中国

中国民衆がモノを言う株主化しているのは間違いない。これはインターネットの力にあずかっているところが大きい。もともと中国は公私の区分はあいまいで、統治者と被統治者だけがはっきりしている。公益意識は低いまま、あらゆる場面で私利私欲が激突している。こうした大規模人災は、それらの行きく先、終着駅と言ってよい。

しかしこのままではいけない、と考える中国人は増えている。テレビ番組の自粛要請もこうした流れの中にありそうだ。中国は日々すさまじい勢いで変わっている。それは都市の外観や経済指標だけではない。

中国人の心の中も変わっている。こちらの行きつく先にも関心を向けなければならない。過去のイメージをひきずったままでは、日中間の対話はますます難しくなる。(高野悠介、現地在住の貿易コンサルタント)

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