記憶と同時に「感情を動かす」

では、なぜイメージに変えると記憶に残りやすくなるのでしょうか。ここでいったん話を「人間の脳について」に移します。人間の脳はもともと、感情が伴った記憶を強く残すような仕組みになっています。そして実は、それが人類を現在まで生き延びさせた大きな要因になっています。

今では身の回りに命を脅かすような危険な状況はほとんどありませんが、大昔の人類の周りには、そうした危険がたくさんありました。そんな状況下で生命の危機を回避するには、恐怖などの"感情"を優先して記憶できる脳の仕組みが必要だったのです。そして、その脳の仕組みが現代人にも受け継がれているのです。

“感情"が記憶のための大事な要素だということを知るための例としてわかりやすいのが、誰もが持っている“思い出"です。思い出とは記憶です。なぜいつまでも思い出が記憶として残っているのでしょうか。それはその体験、経験をしたときに楽しかったり、うれしかったり、悲しかったり、悔しかったりといった感情が同時に紐づけられたからです。このような、自分の経験したことの記憶の種類を「エピソード記憶」といいます。

それに対し「富士山の高さは3776メートル」とか「英単語のmemoryの意味は記憶」といったような物事の意味をあらわす記憶を「意味記憶」といいます。

皆さんもすでに感覚的におわかりだと思いますが、「意味記憶」よりも「エピソード記憶」のほうが覚えるのは容易です。しかしながら、実生活において仕事や勉強等で記憶すべきものは文字情報が中心の「意味記憶」がほとんどです。これを「エピソード記憶」に書き換えられれば、その分記憶が楽になるといえます。そのために利用するのがイメージ(映像)なのです。

そのままでは単なる文字の情報でしかないものをイメージに変えて頭の中に思い浮かべることによって、その情報を"経験"したことになるのです。その絵が強烈であればあるほど、感情も同時に動かされより強く記憶として残るのです。

イメージは、無意識のうちに記憶している

人が映像に対していかに敏感かを証明した実験結果があります。アメリカの研究者が2560枚のスライド写真を1枚につき10秒ずつ被験者に見せるという実験を行いました。被験者は、トータルすると7時間におよぶスライドの映像を数日に分けて見ることになります。

そして最後のスライドが終了した1時間後に、あるテストを行ないました。実際に実験中に見たスライドと、もう1組、似てはいるが実際には見ていないスライドを用意して、ペアの状態で被験者に見せたのです。そして、どちらが実験中に見た本物か認識できるかを調べたところ、被験者の認識率の平均は85から95%にも上ったそうです。短時間で大量に見せたにもかかわらず、実はかなりの部分を記憶していたわけです。

これだけ鋭敏な感覚を、記憶のテクニックにも使わない手はありません。