需要面の動き
◆消費
2015年の消費は比較的高い伸びを維持した。個人消費の代表指標である小売売上高は前年比10.7%増と前年の同12.0%増を1.3ポイント下回ったものの、原油価格などの下落を受けて商品販売価格指数の上昇率が鈍化したことから、価格要因を除いた実質では前年比10.6%増と前年の同10.9%増からわずかな鈍化に留まった(図表-3)。
内訳を見ると、自動車や化粧品などは伸びが鈍化したものの、反腐敗キャンペーンの余波で落ち込んでいた飲食は7%の伸びを回復、住宅販売の持ち直しに伴って家具類や家電類も伸びを高めた(図表-4)。
2016年に入っても比較的高い伸びを維持しているがやや伸び悩んでいる。1-4月期の小売売上高は前年同期比10.3%増と前年の伸びをわずかに下回った程度だが、原油価格などの反転を受けて商品販売価格指数が上昇し始めたため、当研究所で推定した実質では同9.7%増と前年の伸びを0.9ポイント下回った(図表-3)。
内訳を見ると、自動車は2015年10月に再開された小型車減税(排気量1.6L以下)が支援となって7%の伸びを回復、家具類や化粧品も伸びを高めたものの、衣類等の伸びは鈍化傾向が続いており、家電類も2016年に入って伸びが鈍化している(図表-4)。
今後の消費動向を考えると、雇用指標に大きな落ち込みは見られず、中間所得層の充実というトレンドが引き続き追い風となることから、比較的高い伸びを維持すると見ている。但し、2015年よりは伸びが鈍りそうである。
ひとつのマイナス材料が所得の伸び鈍化である。2015年の工業企業利益は前年比2.3%減と落ち込んだものの、最低賃金の引き上げなどで都市部一人当たり可処分所得は前年比8.2%増と前年の伸びをやや下回る程度に留まった。しかし、企業利益の落ち込みが続けば賃金に反映しかねないため、中国政府は税制改革(営業税⇒増値税)や社会保険料率等の引き下げで企業負担を軽減する財政運営を進めている。
企業負担の軽減で利益が上がれば、個人への所得分配の低下を回避できるからである。2016年に入り1-3月期の工業企業利益は前年同期比7.4%増と上向いた。ところが、前年の企業利益が落ち込んだこともあり、1-3月期の都市部一人当たり可処分所得は前年同期比8.0%増と前年の前年比8.2%増をやや下回った(図表-5)。
もうひとつのマイナス材料がインフレ率の上昇である。昨年は原油価格などの下落を受けて、実質ベースでの都市部一人当たり可処分所得は前年比6.6%増と前年の同6.8%増をやや下回る程度に留まった。しかし、1-3月期の都市部一人当たり可処分所得(実質ベース)は前年同期比5.8%増と前年の前年比6.6%増を0.8ポイントも下回っている(図表-5)。
◆投資
2015年の投資は大きく減速した。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)は前年比10.0%増と前年の同15.7%増を5.7ポイント下回った。内訳を見ると、製造業は前年比8.1%増と前年の同13.5%増から5.4ポイント低下、不動産業も同2.5%増と前年の同11.1%増から8.6ポイント低下した。一方、インフラ関連と消費サービス関連は増加率こそ鈍化したものの、それぞれ同17.1%増、同14.3%増と高い伸びを維持した。
2016年に入ると昨年大きく減速した投資は持ち直した。1-4月期の固定資産投資(除く農家の投資)は前年同期比10.5%増と前年の伸びを0.5ポイント上回った(図表-6)。
内訳を見ると、製造業が前年同期比6.0%増と2.1ポイント低下し、消費サービス関連も同10.0%増と4.3ポイント低下した一方、不動産業は同8.4%増と5.9ポイント上昇し、インフラ関連も同19.8%増と2.7ポイント上昇した(図表-7)。
インフラ関連が伸びを高めたのは、中国政府が景気テコ入れのために「中央予算内の投資は上半期に全て実行」する方針で臨んだことが効いたものと見られる。また、不動産業が伸びを高めたのは、住宅販売が増勢を強めるとともに、住宅価格は上昇し始め、在庫は減って新規着工が増えて、住宅サイクルが悪循環を脱したことが効いている。
今後の投資動向に関しては、過剰設備・過剰債務を抱える製造業には引き続き多くは期待できない。「中国製造2025」に関連する領域では積極的な投資が期待できるものの、過剰生産設備を抱える分野などでは安価で豊富な労働力を求めて後発新興国へ工場を移転する企業が増えているため、製造業全体では二桁の伸びを回復するのは難しいだろう。
不動産業の投資に関しては、住宅サイクルが悪循環を脱したことを受けて、当面は伸びが回復する局面にある。しかし、上海や深?などの巨大都市では住宅価格の急騰でバブル懸念が高まっており、地方政府は既に不動産規制の強化に動き出していることから、2017年には再び一桁台前半(3~5%程度)へと伸びが鈍化すると見ている。
消費サービス関連に関しては、中間所得層の充実や店舗販売から電子商取引(EC)へのシフトなど潮流が大きく変化する局面にあることから、二桁の伸びを維持すると見ている。特に、中間所得層の充実が追い風となる文化・体育・娯楽や教育、ECでは物流網整備関連(農村のサービス拠点、コールドチェーン構築など)の伸びが高まると見ている。
インフラ関連に関しては、前述のとおり中国政府が予算を前倒し執行したことを受けて、当面は高い伸びを示すと見られる。しかし、今年の成長率目標(6.5%~7.0%)の達成に確信が持てる状況となれば、下半期には反動減が予想される。
一方、成長率目標の達成が危ぶまれる状況となれば、追加の景気テコ入れ策を打ち出す可能性もある。中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連の需要や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)(*2)」に伴う交通物流関連の需要は依然として大きい。
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(*2)新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元(約800兆円)に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
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◆輸出
輸出金額(ドルベース)の動きを見ると、2015年は前年比2.9%減とリーマンショック後の2009年以来6年ぶりに前年を下回った(図表-8)。景気が上向いた米国向けは前年比3.4%増と好調だったものの、景気が低迷を続けたEU向けは同4.0%減、日本向けは同9.2%減と前年割れになり、その他の国・地域向けも原油安などで資源国が不振だったため同3.1%減となった。
2016年に入っても世界経済の成長の勢いは鈍く、1-4月期の輸出も前年同期比7.6%減とマイナス幅を拡大しており、米国向けが前年比8.9%減、EU向けが同4.4%減、日本向けが同7.0%減、ASEAN向けが同8.9%減と、軒並み前年割れとなっている。
3月には輸出の先行指標となる新規輸出受注指数が拡張収縮の境界線となる50%を1年6ヵ月ぶりに回復したことから、今後は若干の反動増があると見られるものの、世界経済の回復が緩やかなものに留まりそうなことを踏まえると、輸出が中国経済を牽引するとは期待できないだろう(図表-9)。