住宅バブルと金融政策

住宅価格は上昇している。中国国家統計局が発表した新築分譲住宅価格(除く保障性住宅 )を元に当研究所で70都市平均を計算したところ、2015年4月を直近底値として4.6%上昇した(図表-10)。

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住宅価格が上昇した背景には、購入制限の緩和と金融緩和により、販売が増勢を強めたことがある。2015年には住宅を購入する際の戸数や戸籍などの規制緩和が各地で相次ぎ、住宅ローンを借りる際の頭金比率の条件も緩和されていった。また、2014年11月以降、中国人民銀行(中央銀行)は6度に渡って利下げを実施、預金基準金利(1年定期)を当初の3.0%から現在の1.5%へと1.5ポイント引き下げ、貸出基準金利(1年以内)も当初の6.0%から現在の4.35%へと1.65ポイント引き下げた(図表-11)。

それに伴って住宅ローン金利も低下、住宅ローン残高は勢い良く伸びを高めた(図表-12)。住宅販売が増勢を強めたことで、価格は上昇、在庫が減って新規着工は増えて、住宅市場のサイクルは上向き、景気にプラス効果をもたらし始めている。

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ところが、都市別に見ると、深圳市では直近高値(2014年4月)を64.8%も上回るなどバブル懸念が高まる一方、温州市(浙江省)では直近高値(2011年8月)を22.4%も下回るなど二極化が鮮明となっている(図表-13)。直近高値を超えたのは70都市のうち12都市に過ぎず58都市では下値不安が燻る(図表-14)。

中国政府は、バブル懸念が高まった都市では購入制限の強化や土地供給の積極化などでバブルを防止する一方、下値不安が残る都市では購入制限の緩和(頭金比率の引き下げなど)や税制優遇(不動産取得税、営業税)などで販売を支援している。即ち、地域事情に応じて、住宅販売の促進とバブルの抑制という正反対の政策を同時に実施している。

今後、インフレ率は原油価格上昇から緩やかな上昇基調と見られるが、バブルを警戒して利上げを急げば住宅販売が低迷する都市では景気が悪化しかねず、景気を重視して利上げを躊躇すればバブル懸念が高まりかねない。全国一律で同一方向に作用する金融政策は難しい舵取りが求められる。

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経済見通し

2016年の成長率は前年比6.6%増、2017年は同6.5%増と「緩やかな減速」を予想する。個人消費は、雇用指標に大きな落ち込みは見られず、中間所得層の充実というトレンドが引き続き追い風となることから比較的高い伸びを維持すると見ている。但し、景気減速で賃金上昇率が鈍るのに加えて、インフレ率の底打ちで実質所得が目減りすることから、実質消費の伸びは若干鈍化するだろう。

一方、投資は、過剰設備・過剰債務を抱える製造業では伸びの鈍化が続くものの、消費主導への構造転換が追い風となる消費サービス関連や、新型都市化・環境対応で大きな潜在需要を抱えるインフラ関連は堅調、住宅市場のサイクルも上向いてきており、投資は小幅に回復すると見ている。また、消費者物価は原油価格上昇から緩やかな上昇基調を予想する(図表-15)。

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金融市場の動向としては、米国では2016年7月以降、四半期に1度のペースで政策金利を引き上げると想定している。一方、中国では過剰設備・過剰債務の整理で景気回復が遅れるため、中国の利上げは米国よりも1年程度遅れて2017年後半と想定している。従って、現在1%程度の米中金利差は縮小、人民元は2017年夏に1米ドル=6.7元程度までの下落を予想する(図表-16)。

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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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