日本経済にとって重要で、その成長に資するとみられるのが、投資協定だ。国内企業が海外、特に市場環境の整っていない新興国に進出する際に、投資財産の接収や曖昧な規制から不利益を被らないよう守る、国同士の「約束」で、国内企業の投資先国における、不当な取り扱いを防ぐ効果などが期待される。

最近では、安倍政権も投資協定の締結を進める姿勢を明確化。核開発などを理由に課されていた経済制裁から解き放たれたイランや、東アフリカで比較的に大きな経済規模のケニアなどと、日本政府は投資協定を締結。投資環境の制度面の整備を前進させてきた。

現在、日本政府は2020年までに現在の42を大幅に上回る100以上の国・地域と投資協定の締結を目指している。具体的には、アフリカをはじめとした国・地域と投資協定の締結に向けて、交渉も進んでいる模様。こうした取り組みが、新たな投資の余地を生み出すのか、その背景を探る。

ビジネスに恩恵多い投資協定締結

特に、人に先んじて利益を上げるには、潜在成長率の高い投資フロンティアを見つけることが不可欠だ。投資環境を整備することで、投資額も飛躍的に伸びることもわかっている。

日本はペルーと2009に協定を結んでおり、同国への直接投資額は2013年までに、約3倍にまで増加するなど、大きな効果を生んできた。ほかにも、2007年に投資協定を含む経済連携協定(EPA)を日本と交わしたタイへの投資が4倍以上に増えた経緯もある。

そこで気になるのは、「次のフロンティアはどこか?」だろう。政府も取り組みをすでに進めており、戦略的に地下資源の豊富な国や地域などへアプローチしている様子で、もしかするとそうした国々の成長を取り込む余地が今後、さらに増すかもしれない。

具体的には、アフリカなどが投資協定の締結推進先として挙がっており、南アフリカ共和国、アルジェリア、ガーナ、マダガスカルなどとの投資協定の締結が目指されている。モロッコと投資協定締結の協議が進んでおり、日本貿易振興機構(JETRO)とモロッコ商工業・投資・デジタル経済省がすでに協力覚書に署名しているほどだ。

また民間からの投資も進展。住友電装などがこれまで、アフリカに進出しており、関西ペイント <4613> も工場を建設する予定だという。住友電工 <5802> は太陽光発電プラントの建設契約を締結した。日揮 <1963> も中期経営計画の中で主力のオイル&ガス事業の新規マーケットの一つに東アフリカを挙げており、ビジネスの現場でも注目を集めていることが窺える。

中南米にも大きな成長余地か?

もう一つ有望な、日本政府が投資協定の締結を目指している国・地域がある。南米だ。かつて通貨・債務危機に見舞われるなど、困難にも遭遇してきたが、同地域で人口増などが見込まれることから、投資先としても注目されているのだ。

南米のその潜在的な成長力には、裏付けもある。4大監査法人の一角を占めるPwCが2015年に公表した調査報告によれば、2050年のGDP予測世界ランキング(購買力平価ベース)は、第5位ブラジル、第6位メキシコ(ちなみに、日本は第7位と予測)されている。

他方で、2050年までの実質GDPの年間平均成長率は、コロンビア4.1%、メキシコ3.6%、ブラジル3.0%、アルゼンチン2.7%と見込まれている。何れも日本の1.4%を大きく上回る水準だ。

こうした中で日銀が公表している直接投資残高の地域別統計をみると、2014年の中南米(タックスヘイブンのケイマン諸島を除く)への直接投資残高は7兆3127億円となっており、全体に占める割合も5.1%とまだまだ低い割合だ。

中南米の「何に」投資すればいい?

もちろん、最も大きな問題の一つは、「具体的にどの分野に投資するのがいいのか?」ということだろう。結論から言えば現在すでに、南米で注目されているのは、「自動車」だ。経済発展が進むに従い個人の主たる移動手段は、徒歩、自転車、オートバイ、自動車へと変化するとみられ、南米でも自動車の普及が進むと予測されている。

少し古いデータだが、中南米における2002年から2007年までの人口1000人当たりの自動車普及台数の増加率は50%に達している。中国、インド、インドネシアが含まれるアジア・太平洋地域の20%を大きく上回る水準だ。

自動車の平均使用年数は米国などの先進国では10年程度だが中南米は14年近く使う。2008年のアルゼンチンの自動車登録データをみると61.3%が10年前の1998年以前に登録されたものだ。今後経済発展が進めば自動車購買層が拡大するだけでなく、買い替えサイクルの短期化も進みますます新車販売倍数が増えるだろう。

GDP総額が世界第9位のブラジルは、既に世界有数の自動車生産・消費国となっている。サンパウロ近郊では現代自動車、トヨタ自動車 <7203> 、フォルクスワーゲンが工場を構えているが、国内需要は引き続き大幅に増加しており近年は輸入により供給不足を補っている状況だ。このため各自動車メーカーはサンパウロ地域で大規模な投資を行っている。

PwCによればサンパウロの自動車産業は今後も成長を続け、2010年の生産台数で2倍の差をつけられていた米国デトロイトを2040年までに逆転すると見込まれている。

中南米進出成功のカギは現地対応

ブラジルの自動車産業では欧州系メーカーが優位に立っている。フォルクスワーゲン、フィアット、メルセデス・ベンツ、プジョー・シトロエン、ルノーの合計シェアは60%程度だ。これに対しトヨタ自動車 <7201> 、日産自動車 <7267> 、ホンダ <7211> 、三菱自動車の日本勢の合計は10%に満たない。

自動車には国・地域の特性に応じた仕様が求められる。排ガス規制、天候、使用目的、経済力などを考慮し、その国・地域にふさわしい自動車を販売しなければならない。例えばブラジルでは早くからエタノール燃料車が普及したため、ガソリンとエタノール燃料を混合使用するフレックス燃料エンジン車が圧倒的に多い。現地のこうした実情を踏まえた商品開発や販売ルートの構築が不可欠だ。

また日本メーカーが注力してきたガソリンと電気のハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、自動運転車などを世界規模で広めるための戦略も欠かせない。中南米ではバイオ燃料車が主流ということになれば、日本メーカーは市場に参入できなくなるかもしれない。(ZUU online 編集部)

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