そして政治的な緊張も続く
◆景気の位相は様々でも、既存の政治に対する不満の高まりは広く共通する傾向
国毎に景気の位相は様々だが、国民の既存の政治に対する不満の高まりは広く共通する傾向だ。
昨年秋以降、EU各国で実施された選挙では、主流派政党の支持が低下、反緊縮や反EU・反移民など従来の政策路線を否定する政治勢力に支持が広がる傾向が鮮明になっている(図表15)。
◆これまでのところ、ギリシャを除き政局の変化が経済活動に大きな影響を及ぼしたケースはない
これまでのところ、15年のギリシャを除いて、政局の変化が経済活動に大きな影響を及ぼしたケースはない(*2)。
理由の1つは、ECBの国債買い入れとマイナス金利政策によって、金利の水準が全般に低下、域内のスプレッドの拡大が持続し難くなっていることにある(図表16)(図表17)。
ECBの国債買い入れは、現時点での期限は17年3月だが、少なくとも17年9月まで半年程度は延長する可能性が高く、その後もさらに半年程度、規模を縮小しつつ継続の可能性がある。
ユーロ参加国の場合は、EUのルールを明らかに逸脱するような政策運営に踏み込まない限り、自力の資金繰りが困難になるような国債利回りの上昇は回避され、ユーロ圏内で財政危機が拡大した2010~12年のような経済活動の萎縮に至ることはないと考えられる。
しかし、これまでは、国政選挙で主流派政党の退潮、あるいは反緊縮、反EU・反移民の政治勢力の台頭が明確になったのは主に中小国であり、主要国では欧州議会選挙や地方での選挙に限られてきた。しかし、今後は、欧州の主要国で重要な政治イベントが相次ぐ(図表18)。従来路線を否定する政治勢力が伸張した場合の重みが増す。
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(*2)2015年のギリシャ危機については、近日公表予定のニッセイ基礎研究所「基礎研所報」2016年 Vol.60収録の「ギリシャ危機2015 緊迫の3週間を振り返る」をご参照下さい。
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◆英国の国民投票の離脱多数は世界的な金融市場の動揺をもたらすおそれ
近い将来では、やはり6月23日に英国で行なわれるEUへの残留か離脱かを問う国民投票が注目される(*3)。
今回の経済見通し(表紙図表参照)は、経済的なコストとベネフィットのバランスから導かれる「残留多数」という結果を前提としたが、離脱多数となった場合には、イングランド銀行(BOE)の金融政策の見通しなどに修正が必要となる。
英国の国民投票が、他の政治イベントと違うのは、かなり大規模な資本の移動が生じて、世界の金融市場に影響が広がる潜在的なリスクがある点だ。イングランド銀行(BOE)は、主要中銀とのスワップ・ラインリスクに対して十分な備えを用意していると思われる。
リーマンショック当時と異なり、銀行等の資本基盤も強化されており、金融システムの耐性も高まっていると思われる。しかし、他方ではグローバルな規制の強化で、金融機関のリスク許容度が低下している面もある。
今年初、世界市場の不安材料となった新興国やエネルギーセクターの債務問題も解決した訳ではなく、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げの小休止で小康状態を保っているに過ぎない。
英国国民投票が離脱多数という結果が終わった場合には均衡を崩すきっかけとなるおそれがある。