◆英国の国民投票の3日後にはスペインで再選挙

昨年12月の総選挙後の政権交渉がまとまらなかったスペインでは6月26日に再選挙を予定するが、今回も4党に票が分散、単独過半数を獲得する政党は現れず、新政権の発足には政権協議が不可欠となり、直ちには決着しない見通しだ。

政権の組み合わせとしては、中道右派の国民党(PP)と中道左派の社会労働党(PSOE)という旧2大政党による大連立や、急速に勢力を拡大したポデモスを主軸とする左派合同会派ウニードポデモスによる左派連合などが考えられるが、再々選挙回避のために妥協の余地を探りあてることができるのか、情勢は楽観できない。

実質GDPの推移を見る限り、スペインの景気回復は順調だが、スペイン社会学研究センター(CIS)が毎月行なっている意識調査の最新版でも(*4)、経済情勢は「悪い」という見方が4割を占め、過去1年間で「変わらなかった」という見方が5割、先行きについても「変わらない」が4割と最多で、「良くなる」との見方が減り、「悪くなる」という見方が増えている。

政治状況については、前回総選挙が行なわれた昨年12月以降、「とても悪い」という割合が増えて足もとでは4割を超えている。

前述の通り、財政政策面で、15年で名目GDPの7.2%に膨らんでいる財政赤字の3%の目標達成に多少の猶予が得られそうだが、財政健全化措置を継続せざるを得ない状況は変わらない。政権が交代しても、政策の大枠を変わり難く、国民の政治への不満は一層深まる可能性がある。

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(*4)5月1~10日に全国256自治体、48件で2,500人を対象に実施した調査(出所:PressdegitalJapan)
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◆今秋のイタリア国民投票は首相辞任に発展する可能性。17年には蘭、仏、独で国政選挙続く

さらに今秋、イタリアでは、上院の権限縮小のための憲法改正の是非を問う国民投票が行なわれる。就任以来、欧州委員会から財政ルール面での譲歩を引き出しつつ、労働市場などの改革に意欲的に取り組んできたレンツィ首相は、国民投票が否決という結果に終わった場合、辞任する意向を示している。

イタリアでは、民主党の支持率が低下、コメディアンのグリッロ氏が創設したポピュリスト政党「五つ星運動」の人気が高まっている。首相辞任の場合も、18年2月に予定される総選挙の前倒しは回避されると見られるが、イタリア経済の成長の再開に不可欠な改革が滞る懸念がある。

さらに17年にはオランダ、フランス、ドイツというEUの中核国が国政選挙を予定する。オランダでは、難民問題への危機意識が高まった15年秋以降、難民への国境封鎖、EU離脱を掲げる「自由党」の支持率がトップとなっている。フランスでも、オランド政権が進める労働市場改革への国民の不満は広がっており、マリーヌ・ルペン党首が率いる「国民戦線」への支持が広がる。

ドイツでは、メルケル首相のキリスト教民主社会同盟(CDU/CSU)が支持率で第1位を保っているが、大量の難民が流入した昨年夏を境に明確に支持率が低下している。さらにECBの超金融緩和策の副作用である家計の金利収入の低下などへ不満は高まっている。他方でユーロ圏からの脱退、難民受け入れ制限を求める「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持が拡大している。

「国民戦線」や「AfD」が政権の座につくことはなく、景気やEUの運営に大きな支障を来たすおそれはないと思われるが、EUを牽引してきた両国の政治の変容を象徴する選挙となる可能性がある。

◆ギリシャ危機2016は回避の目処

ユーロ圏で唯一の支援プログラム国となったギリシャの資金繰りについては、5月24日のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)で15年8月にスタートした第3次支援プログラムの第2次融資枠として103億ユーロを設定、6月中に75億ユーロの融資を実行することで大筋合意した。7月23日に予定する23億ユーロの国債償還の目処が立ち、「ギリシャ危機2015」は回避の見通しとなった。

第3次支援プログラムへの国際通貨基金(IMF)の参加の障害となっていたギリシャ政府の債務の持続可能性回復のための政府債務に関しても、第3次支援プログラムが終了する18年8月までに返済期限の平準化や金利負担の軽減などの措置を実施する、大国の政治イベント終了後、ギリシャが支援プログラムを卒業するにあたり実施する中期の措置、さらに長期の措置として総必要調達額(GFN)目標の達成が困難になった場合の追加措置という3段階の負担軽減策が提示された。

元本削減という抜本措置は盛り込まれず、IMFが、ユーログループが予定する一連の措置が債務の持続性回復に十分と判断するかは不透明な面もある。それでも、難民危機によってEUにとってのギリシャの地政学的な重要性が再認識される一方、主要国が重要な政治イベントを控えるタイミングでギリシャ問題が再燃するリスクに早めに対応すべきとの判断が働いたようだ。

伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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