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(写真=PIXTA)

中国国務院新聞辯公室が9月12日、中国版人権白書「中国司法領域人権保障的新進展」を発表した。日本人の抱くイメージは極めて悪いと思われるが、中国における人権とは実際にどう扱われているのだろうか。

またそれは法的にどこまで保障されているのだろうか。地方紙も“人権成績表”として紹介している。以下この白書の内容を探ってみよう。

2012~2015年、4年間のデータ

同白書は漢字1万3900字の大作で、「司法は社会公平と正義を保護する最後の一線、人権保障、人権事業発展の重要方面」と謳われている。新聞ではまずデータから紹介している。

裁判所を訪れた群衆1万9788人。受け取った意見、投書7万3843件。汚職腐敗犯罪9万4900件、被告人10万200人。結審した民事、商事案件3230万2400件。結審及び審議中の資源、環境案件49万5500件。結審した国家賠償案件1万2300件。法律相談案件470万件。減刑判決案件240万6100万件、保釈案件16万100件--といった数字が並んでいる。以下重要な項目を分析してみよう。

容疑者・服役囚の権利保護

白書によると、監獄、看守に対する管理を強化し、収監者の合法的権利を侵さないよう改善したとある。2610カ所に看守所苦情処理システムを導入し、2558か所の看守所には看守の監督員を置き、不法な尋問や行為を許さず法執行の透明度が増した。

つまり最近まで、監獄内は何でもありの無法地帯、監獄とは地獄、看守とは悪魔の化身だったのは間違いない。この改革により、未決期間は大幅に短縮され、減刑、仮釈放、監獄外服役の推進など、各級裁判所による減刑事案は250万件以上となり、大幅な服役環境の改善が進んだ。また3万1527人が現政権による恩赦(特赦)を得ている。

また、推定無罪の原則、冤罪防止を徹底したことにより、各級裁判所はこの4年間に3369名の被告人に無罪判決を言い渡した。各級検察院では犯罪構成要件不足、つまり証拠不十分の13万1675人を逮捕拘束せず、また2万5578人を起訴しなかった。立件中止事案も1万384件に及んだ。そして強権的な証拠集めなど不法捜査を排除し、犯罪容疑者の合法的権利を保障することを謳っている。

経済犯罪と青少年犯罪

白書によると2015年、信用事故によりブラックリスト入りした自己破産者は308万人に上る。しかし彼らのうち、延べ357万7000人が、飛行機のチケットを購入、59万8800人が高速鉄道や一般鉄道で「軟車(グリーン車)」を利用するなど、なぜか優雅な暮らしを満喫していた。こうしたケースに対し、法律の効果的執行を強化しなければならないと強調している。

彼らには生活や経営に必須の経費を除き、全面的な行動制限を受ける社会的懲罰システムが必要とある。さすが見かけ重視の中国人の面目躍如というところだ。立派な成りだが、内実は火の車という人は実際に多い。

青少年犯罪は2002年以降、概ね2%前後で推移している。全犯罪に占める比率は下降傾向で、2015年には3.56%低下した。今後さらに未成年刑事訴訟と社会復帰促進のマニュアル作りを進めていく。

そのため最高人民検察院に未成年検察工作辯公室を設置、これを下級検察院にも波及させていく。また人民法院では少年法廷の建設を推進した。その結果2015年には、全国に少年法廷2253か所、少年法廷裁判官7200人を数えるまでになった。

さらに2013年から2015年までの3年間、各級人民法院で結審した児童猥褻案件は7610件、処罰された者は6620人。児童虐待は結審した案件224人だった。頻発する婦女子誘拐犯罪の解決では、DNAバンクの充実など政策の進展により4100人が父母の元へ戻った、と自賛している。しかし戻っていない人数が大いに気になるところだ。

ますます拍車かかる汚職捜査

記事は最後に「腐敗職務犯罪の懲罰強化、良好な政治及び法治環境による人権保障の創造」を挙げている。

汚職は先のデータで挙げたとおり4年間で9.49万件、10万200人だが、2015年だけで4万800件も立件しており、現政権の汚職捜査にはますます拍車がかかっているようだ。

その他、目についたのは、産業事故など重大責任事故犯罪である。起訴された者は2199人にすぎない。ただし1審判決にまで至った事例は、4年間で406万2600件にも及び、人災による事故の多さと処分の甘さを率直に物語っている。

また司法情報の公開にも言及している。最高人民法院は、裁判過程の公開、裁判文書の公開、執行情報の公開を2015年末に達成した。裁判過程公開のWebサイトには、すでに87万8500人、執行情報には延べ3685万回のアクセスがあった、としている。

いずれのケースにせよ中国のスローガンとは、実際はそうなっていないことの裏返しである。これら新聞が取り上げた例は、問題のほんの一部に過ぎず、法治環境の整備、改善は端緒についたばかりだ。

しかし白書は、自画自賛トーンで一貫している。さらにこの白書も行政を担う国務院が発表するなど、行政と司法は相変わらず一体の体制である。これでどこまで改革が進むのかはわからない。実態はいつも闇の中である。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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