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(写真=PIXTA)

マンションの空き部屋など一般住宅に旅行客らを有料で泊める国家戦略特区の民泊制度で、政府は最低宿泊日数を6泊7日から2泊3日に緩和する方向を打ち出した。特区民泊の推進には大きな前進といえるが、全国有数の民泊需要を抱える大阪府と京都府では、対応に温度差が出ている。

大阪府や大阪市は政令が改正されれば民泊条例を改正するとして歓迎の意向を示している。これに対し、京都府や京都市は京都独自のルールを模索するとして、冷ややかな対応を崩していない。

政令改正後、最低宿泊日数は2泊3日に

国家戦略特区の民泊はこれまで、最低宿泊日数を6泊7日と規定してきたが、2泊3日に緩和する。同時に宿泊者名簿の作成や近隣とのトラブル防止措置を事業者に義務づける。政府は近く政令を改正する方針だ。

国家戦略特区の民泊は既に東京都大田区と大阪府でスタートしており、10月末から大阪市、今年中にも福岡県北九州市で始まる。しかし、認定施設は9月末現在で大田区内24カ所、大阪府下4カ所にとどまっている。8月末現在の宿泊者数も208人(うち外国人104人)でしかない。

訪日外国人観光客の急増に伴い、首都圏や京阪神で深刻化する宿泊施設不足の解消が特区民泊制度の狙いだ。観光庁がまとめた2015年の宿泊施設客室稼働率は、大阪府85.2%、東京都82.3%、京都府71.4%と全国平均の60.5%を大幅に上回っている。

認定施設が増えない最大の原因は、6泊7日の最低宿泊日数にある。民泊利用者が宿泊場所1カ所に滞在する平均日数は、日本政策投資銀行の訪日外国人調査で2.5日、大手民泊サイトエアビーアンドビーまとめで3.5日。6泊7日の最低宿泊日数では、実態に合わず、多くの事業者が敬遠してきた。

大阪府の松井一郎知事らは、このままでは違法民泊が横行しかねないとして、実態に合わせた最低宿泊日数にするよう政府に要望していた。政府が2泊3日としたのは、1泊2日だと宿泊業者と同一条件になるのを避けたとみられる。

一般住宅で民泊をするには、特区民泊の認定を受けるか、簡易宿所の営業許可を得る方法がある。特区民泊の認定の方が所得するためのハードルが低いため、政令改正後は認定申請が加速しそうだ。

大阪府や大阪市は条例の改正を予定

大阪府は政令改正を受けて施行中の民泊条例を改正する方向。府下では、4月から34市町村が民泊制度をスタートさせたが、認定した特区民泊場所は大東市、門真市、藤井寺市、守口市に各1カ所あるだけ。宿泊施設不足が特に深刻な泉佐野市などでは1カ所もない。

民泊サイトでは、マンションの空き部屋や空き家など多数の施設が紹介されているが、その多くが違法民泊とみられる。宿泊施設の予約が取れず、違法民泊に流れる宿泊者が後を絶たないのが実態のようだ。

大阪府環境衛生課は「6泊7日の最低宿泊日数は利用者のニーズに合っておらず、規制緩和の方針を歓迎したい。政令改正があれば民泊条例を改正し、宿泊施設不足の解消に努める」としている。

大阪市は特区民泊の認定申請を10月31日から受け付け、民泊条例をスタートさせる予定だが、キタ、ミナミの繁華街やユニバーサルスタジオジャパンを中心に大勢の訪日外国人観光客が集まり、宿泊施設不足が深刻だ。

大阪市生活衛生課は「政令の改正があり次第、民泊条例の最低宿泊日数を6泊7日から2泊3日に切り替えたい」と政府の方針を歓迎している。

京都府や京都市は独自のルール作りの方針

これに対し、京都府や京都市は民泊条例を制定していないこともあり、従来通りの方針を崩していない。ともに宿泊施設不足は旅館業法の簡易宿所など宿泊施設の増設で対応する方針だ。

京都市は宿泊施設の拡充や民泊に関する方針を示した「京都市宿泊施設拡充・誘致方針(仮称)」を10月中にまとめる計画。素案では、旅館業法など関係法令の順守を徹底し、市独自の民泊ルールを策定する一方、宿泊施設の立地が制限される地域であっても、条件を満たせば特例的な開業を可能にするとしている。

違法民泊に対しては、簡易宿所の許可を取得するよう指導、助言してきた。その結果、4月から8月末までの簡易宿所許可施設数は270施設以上を数え、2015年度1年間の年間許可施設数246を早くも上回っている。

市の調査では、市内に約2700ある民泊施設の9割以上が違法民泊とみられるが、門川大作市長は8月末の記者会見で住居専用地域内にあるマンションの一室での民泊を認めない意向を明らかにするなど、政府の特区民泊とは一線を画す姿勢を示している。。

京都市観光MICE推進室は「京都らしい宿泊のあり方を模索して方針をまとめる。違法民泊には毅然とした対応をするとともに、適法で安心、安全な宿泊環境を構築したい」と語った。

京都府も山田啓二知事が県議会の答弁で、基準に満たない施設に営業中止を指導し、民泊の適正なルール作りに取り組む方針を示すなど、特区民泊に積極的な姿勢を見せていない。簡易宿所については施設やサービス内容に応じ、優良施設を認定する制度を検討している。

京都府生活衛生課は「旅館業法など法令を遵守した民泊の推進が府の立場。今のところ、最低宿泊日数が緩和されるからといって、対応は考えていない」と述べた。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。

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