要旨

●取引ベースの不動産価格指数(1)の公表により、価格動向の把握が以前より早期に可能となり、一部で価格下落が確認された。

●株価とJ-REIT価格はともに頭打ちとなっており、マイナス金利政策の導入による一時的なJ-REIT価格の上昇も、必ずしも不動産投資市場への資金流入を示唆するものではなかった。

●不動産取引は件数、金額ともに減少し、明らかに不動産投資市場の活力は失われつつある。

●東京の賃貸オフィス市場では、高水準のオフィス稼働率が横ばいで推移しており、新築ビル募集賃料やAクラスビル成約賃料が頭打ちしている。

●海外の先行的市場では、ロンドンのオフィス価格指数がBrexitの影響から大きく下落するとみられ、また、香港のオフィス価格指数は高値圏で横ばいに推移している。

●大半の指標が不動産価格サイクルのピークアウトを示唆しており、今後は価格下落がより明確になるとみられる。加えて、国債バブルといえる現在、長期の視点から、改めて将来の金利上昇局面での対応も検討しておきたい。

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1)国土交通省「不動産価格指数(商業用不動産)、日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」
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はじめに

2015年下期に中国経済の失速懸念などを背景とした急激な株価下落、円高がみられて以降、金融市場では不安定な動きが続いている。一方、取引価格動向の把握が難しい不動産投資市場では、価格下落は確認されず、マイナス金利政策も導入されたことから、依然としてアベノミクス以降の価格上昇が継続しているとの見方が多い。

このように金融市場と不動産投資市場で隔たりが感じられる中、本稿では、不動産価格サイクルの現状を先行的な指標を用いて確認し、今後の不動産価格見通しの参考としたい。