失業率は5.0%なら景気後退のサインとなる?

景気後退のサインとして、最も注目されるのが失業率だ。

前回の景気後退は2007年12月から始まっているが、失業率が前年同月を上回ったのはその3カ月前の9月だった。2001年3月から始まった前々回は2カ月前の1月に前年同月を上回っている。

大まかな目安ではあるが、失業率が前年同月に並ぶ、もしくは上回った場合、3カ月から6カ月後に景気の後退が始まる可能性がある。

失業率は5月の4.7%をボトムに上昇に転じており、9月の5.0%から10月も横ばいとなれば、2010年5月以来、6年5カ月ぶりに前年同月比での低下が止まることになる。

失業率の下げ止まりは、景気の拡大がピークに近づいていることを示唆しており、景気後退の動きに先行する指標として注視したほうが良さそうだ。

賃金の高い伸びは素直に歓迎できない

一方で賃金の伸びか高まると消費を促すとの考えから、賃金の伸び率上昇を期待する声もある。しかし、現在のインフレ動向を踏まえると必ずしも歓迎できない。賃金の上昇がインフレ圧力をさらに高めることでむしろ「消費が抑制される」恐れがあるからだ。

9月のCPI(米消費者物価指数)をサービス価格と財価格に分類すると、指数の64%を占めるサービス価格は前年同月比で3.0%上昇、36%を占める財価格は1.1%の低下となっている。サービス価格は国内経済、財価格は海外経済の影響を受けやすいと考えられている。

CPIは全体で1.5%上昇と落ち着いているように見えるが、サービス価格の高い伸びは国内経済がやや過熱している状況を示唆している。項目別では医療費が4.9%上昇、家賃が3.7%上昇しており、この辺りが家計を圧迫している様子もうかがえる。

サービス価格上昇と内需停滞でプチ・スタグフレーションに

7〜9月期の米GDPは前期比2.9%増と事前予想の2.6%増を上回り、4〜6月期の1.4%増から回復したが、輸出と在庫増加の寄与が大きく、内需は精彩を欠いている。柱となる個人消費の伸びは2.1%増と前期の4.3%増から急減速しており、外需と在庫投資を除く国内最終需要も1.4%増と前期の2.4%増から鈍化している点に留意が必要だ。

また、10月の消費者信頼感指数が市場の予想を大きく下回ったことも気がかりだ。

米経済はおおむね堅調そうに見えるが、成長は輸出に支えられており、物価の安定には原油安なども影響していた。一方、個人消費は低調で内需が停滞しており、信頼感も低く、サービス価格の伸びは高い。国内経済に限れば、やや高めのインフレと景気停滞という「プチ・スタグフレーション」の状態にあると見ることもできる。

大統領選を通過しても明るい未来は待っていない

10月下旬にメール問題が再浮上し、大統領選の行方も混沌としている。

「トランプ・リスク」への警戒感から、マーケットの地合いはリスクオフとなっており、強材料に鈍感、弱材料には敏感に反応することが見込まれる。今回の雇用統計では、弱い数字が出た場合、株式市場が想定外の下げとなる可能性があることに警戒が必要となろう。また、この場合ドル円はリスクオフの円高が見込まれる。

長期的な視点に立つと、雇用者数は増勢が鈍化しているので、景気後退との距離を確認する意味で鈍化のスピードを見極めることが重要となる。景気後退リスクと関連づけて、失業率や週明けに発表されるLMCIにも注意を払いたい。

最近の株安や信頼感の低下、さえない個人消費などすべてが大統領選に絡んだ不透明感と解釈することも可能なのかも知れない。とはいえ、来週の大統領選挙で民主党のクリントン候補が勝利すれば、それですべてが払しょくされるとも考えづらい。

大統領選を無事に通過しても明るい未来が待っているわけではなさそうだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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