米国でトランプ大統領が誕生することになったが、フィリピンにも「トランプ」と呼ばれる存在がいる。第16代大統領のロドリゴ・ドゥテルテ氏(71)だ。ダバオ市長などを歴任した氏は2016年6月に大統領に就任。過激な発言でも知られ、国内問題では汚職や薬物のまん延に対しては危機感を持っていて超法規的な犯罪者の殺害も辞さない。

南シナ海での中国の軍事化の懸念の中、米国や中国との外交上のバランスが求められる中で、前政権のマクロ経済政策を引き継ぎながら、外資誘致や高い産業化を進めながら経済成長の実現を目指している。

ダバオ市長を7期務められた理由

過激で言動からトランプ氏との類似性を指摘する声もあるが、政治経験ゼロのトランプ氏とは異なる経歴を持つ。幼少期は家族と南部のミンダナオ島に住み、弁護士の父親も州知事を務めている。

ドゥテルテ氏はロースクールを卒業後、検察官としてのキャリアをスタートし、約28年の間(7期)、ダバオ市長務めた。

フィリピンの法律では首長は連続4期までとなっているため、3期・3期・1期という形をとったという。その間、娘を立候補させ自身は副市長になるなどして、ダバオ政界のトップに君臨し続けたわけだ。

ドゥテルテ市長時代で彼が最も評価され政策は市内の治安改善であった言われている。

オバマ大統領に「地獄に落ちろ」

ドゥテルテ大統領は南部ミンダナオ島出身者だが、この地から大統領が生まれたのは初めて。彼はマニラと地方の経済格差の縮小を主要政策に掲げている。選挙期間中は「犯罪者は殺害する」などの過激発言もあったが、当選後は経済政策だけでなく外交でも米国や日本との関係を前政権の方針を基本的に踏襲するとしている。

中国の習近平国家主席に招かれ、10月下旬に公式訪問したが、これはASEAN(東南アジア諸国連合)以外では最初に訪問する国だった。チャイナマネーの投資を期待してのことと考えられる。国内のインフラを改善する(たとえば病院・学校・発電所など)には資金が必要だからだ。米国に対するアピールという意味で、中国のしたたかな戦略が当然見え隠れする。

実は中国はフィリピンの「大型麻薬中毒者治療センター」設立を支援している。オバマ米大統領が「ドゥテルテ大統領が、まともな裁判も経ずに麻薬中毒者あるいは販売者を逮捕して射殺してしまった」と批判したことがあった。

これに対し、麻薬中毒患者をフィリピンからなくそうとするドゥテルテ大統領は「地獄に落ちろ」と発言したと世界中のメディアが報じた。そして中国が「大型麻薬中毒者治療センター設立」の経費的支援を決定したことで、「これで、誰が本当の友人で、誰が敵なのかが、はっきり分かっただろう」とドゥテルテ大統領は話している。

そして、「来年の米国との合同軍事演習は中止する」という声明も出している。「軍事演習は米国に利益をもたらすだけでありフィリピン軍に何の利益も残していない」という不満から出た本音と見られる。

また米国からの警察用ライフル購入をキャンセルするよう指示したようだ。彼は、「高価な銃を米国からの購入に固執するつもりはない」とし、「他からも調達できる」と、演説の様子はテレビ放映されている。

前のアキノ政権ではアメリカ軍の力を借りて中国に対抗との考え方であったが、ドゥテルテ大統領は逆にアメリカ軍に出て行ってもらっても構わないと発言している。こうした態度はアメリカと同盟関係にある日本にとっても本音分析をしつつ見過ごすことは出来ない。

「中国のメンツ」も重視

「南シナ海は世界の輸出入品の60%が運ばれるエリアだ」、「この海域を通って各国の貿易が行われた国益はフィリピンも例外ではない」としながらも、中国にメンツを保つ機会を与える事は重要だとしている。中国のメンツを保つ最善策としては貿易や投資インフラ整備を考えているのだ。

さらにフィリピンは中国に対し二国間交渉を提案している。ヤサイ外相が言う3つのこととは何か。それは、「フィリピンは国益を優先させる」、「中国のメンツを考える」、「中国に交渉の余地を与える」の3つである。これは、中国との対話で出来るだけ多くのものを引き出す戦略なのである。

国民からの人気は高い

型破りなドゥテルテ大統領のやり方は問題があり対外的な批判も多いが、国民の人気はうなぎ上りの状態のようだ。それは麻薬問題の解決を再優先に掲げているからだ。

盤石に見えるドゥテルテ政権に欠けているものは財力だ。そういう意味でも中国は重要な存在になっている。新政権のお手並みは日本にも大いに参考になるのではないだろうか。(ZUU online 編集部)

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