両手に抱えきれないほどのショッピングバッグを携えて、百貨店内を闊歩する外国人観光客による爆買いブームが終焉を迎えつつあり、業界各社は売り上げ不振に頭を抱える。中国政府の輸入品の関税引き上げ政策により、百貨店での高額商品の売れ行きは振るわなくなったのに加え、これまで百貨店のビジネスモデルを支えてきた国内消費者の百貨店離れも足元で起き始めている。百貨店を取り巻く消費の環境はどのように変化しているのか。

ネット経由で割安に購入

「昔は百貨店で化粧品を購入していたが、今はネットで安く購入できるので定価で買う気になれない」、「百貨店を利用するのはお中元、お歳暮とデパ地下くらい。服は買わない」―ネットの書き込みには、百貨店から離れていった消費者の声が多く寄せられている。

国内消費者が百貨店を利用しなくなった理由はいくつか挙げられるだろうが、最も大きな影響を及ぼしたのはネットショッピングの発達だろう。経済産業省の調査によると、日本国内のネットショッピングなど電子商取引の市場規模は、2015年には13兆7746億円にのぼり、2010年の7兆7880億円からわずか5年あまりで倍近い伸びを見せている。すでに購入したことのある商品のリピートであれば、店頭で販売員から説明を受ける必要もなく、消費者はネットで手軽に買う傾向がある。また、これまで敬遠されがちだった、ネットでの洋服購入も消費者の間には広がっている。

夏と冬のセール期間を除いては、定価販売が原則の百貨店と比べ、ネットショッピングでは随時定価より割安の商品を提供している。また、同じ商品でも、価格の安い順番に並べ替える機能などもあり、安さを求める消費者の志向に合致する。

非正規職員の増加、デパートは富裕層の買い物?

インターネットショッピングの拡大と合わせて百貨店離れを引き起こした要因として考えられるのは、消費者の所得水準の低迷だ。一億総中流と呼ばれ、休日は家族そろってデパートに出向いて買い物という社会モデルはもはや崩壊しつつある。厚生労働省によると、非正規労働者の割合は、94年は20.3%と労働者の5人に1人だったが、2015年には37.5%と、実に3人に1人の時代に突入した。

政府の働き改革の柱の1つでもある「同一労働同一賃金」では、非正規労働者の賃金を正社員の8割程度まで引き上げることを目標に抱えているが、政府がイニシアティブを取らなければならないほど、非正規職員の給与は同じ労働をこなしたとしても、正社員より低く抑えられているのが現状だ。

特に、非正規労働者の1人暮らしのケースでは、家賃、光熱費、食費など切り詰めた生活を強いられ、洋服や化粧品などに回せるお金に余裕があるわけではない。それでもおしゃれを楽しみたいという若い世代は、百貨店のブランド品の代わりにエイチ&エム(H&M)などファストファッションに流れ、百貨店での買い物からはどんどん遠ざかってしまう。

百貨店にも危機感

大手百貨店の一角、三越伊勢丹ホールディングス <3099> の2017年3月期第2四半期決算は、百貨店ビジネスの深刻さを反映した結果となった。売上高が前年同期比5.2%減の5821億7300万円、営業利益が同57.9%減の61億、純利益が同23.3%の83億3800万円まで落ち込んだ。

多くの観光客の爆買いで賑わった銀座店の売上が前年比で8.2%減と大幅に減少したほか、商品カテゴリーでは宝飾品が同10%減と、爆買いブームの終焉を印象付けた。こうした事態を受け、2018年度に営業利益500億円としていた目標の先延ばしに追い込まれたのだ。

外国人観光客による高額商品の購入は一時的な特需だったが、気がかりなのが衣料品などの商品の売れ行きも下落していることだ。衣料品の売上高は前年同期比で7.0%減と、消費者の百貨店離れを象徴するかのような結果となった。衣料品を中心とした中間層の売上げ減少に百貨店も危機感を募らせる。三越伊勢丹は、百貨店事業が売上高の約85%を占めており、脱百貨店依存を経営課題として、新規事業の積極的な拡大に乗り出す。

百貨店に行けば、化粧品から衣料品、お祝いの贈呈品などすべての消費を満たしてくれ、エレベーターガールをはじめ、行き届いたきめ細かいサービスを提供する空間に、来客者は高揚感に包まれたものだ。しかし、雇用を取り巻く環境が変わり、賃金が伸び悩むなか、これまで百貨店のビジネスを支えてきた一部の中間層にとっては、百貨店での買い物は高嶺の花に変わってしまった。

爆買いブームの陰に隠れがちだった、国内で広がる経済格差が、百貨店のビジネスモデルにも転換を迫るまでの状況になりつつある。(ZUU online 編集部)

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