ラーメン,ミシュラン,グルメ
(写真=PIXTA ※画像はイメージです)

日本人に深く愛される国民食、ラーメン。世界の食通必携であるレストラン格付け本「ミシュランガイド」で、「その分野で特においしい料理」に与えられる1つ星を、日本のラーメン店が2年連続して獲得するまでになった。

11月29日に発表された「ミシュランガイド東京2017」の掲載店リストに、担々麺で人気の豊島区のラーメン店「鳴龍(なきりゅう)」が、1つ星に輝いた。グルメライターによれば、「丸鶏やモミジ(鶏の足の部分)を主体に、カキのコクが加えられたスープが非常にうまい」のだという。

鳴龍の掲載店入りは、昨年、ラーメン店として初めて1つ星を取った、同じく豊島区の「蔦(つた)」に次ぐ栄誉だ。数十年前なら、「庶民食を提供するラーメン店が掲載されるなど、ミシュランガイドの質も落ちたものだ」と言われたかもしれない。しかし、ラーメン職人の長年の研鑽と努力により、日本のラーメンは食通も認めるグルメ食の域に到達した。ミシュランガイドへの掲載は、その追認に過ぎない。

また日本のラーメンは、ミシュランガイドに取り上げられただけではない。和食のすしを「再発見」し、世界的なグルメ食に押し上げるきっかけを作った米国において、今静かなブームを呼んでいる。
米国人にとって、ラーメンの魅力とは何なのか。ラーメン文化はどのようにとらえられ、どのように再解釈されているのか。探ってみよう。

流行の先端を行く街ニューヨークで市民権

日本でもすでに報じられている通り、「流行の先端を行く街」として知られるニューヨーク市において、ラーメンは一部店舗で行列ができるほど人気を博している。「細くてコシのある麺を使い、時間と手間をたっぷりかけたこだわりの特製スープで作る麺料理」という、今までになかったスタイルの味と個性が支持を集め、ひとつのジャンルとして確立している。

「ラーメンを知っている」ことが、「すしを語れる」「刺身を食べられる」といった、エキゾチックで深い文化的な造詣を象徴するようになり、高級でおいしい和食の、より親しみやすい一分野として、広まっている。米国ではひと月に数軒から10軒以上のラーメン店が各地にオープンしていると言われ、すしほど爆発的ではないものの、着実に米国人の舌と心をつかんでいる。

とはいえ、ハワイやカリフォルニアなど、在米日本人や日系人の多い場所では、1980年代あたりから、「えぞ菊」などの日本のラーメン店が進出しており、インスタントラーメンやカップ麺の米国進出に至っては、それ以上に歴史がある。

そもそも、戦後日本でラーメンが一般化したのは、米進駐軍が敗戦国日本の食糧難の解決と、米小麦農家の輸出先確保のため、日本に大量の小麦粉を買わせたのが大きなきっかけと言われる。米国と日本のラーメン発展には、深い関係がある。

また、米国各地の刑務所において、囚人の間で「獄中通貨」の役割を果たしてきたタバコが、禁煙励行の広がりに合わせて姿を消し始め、代わりに「日持ちがしておいしい」インスタントラーメンが、新たな「通貨」の地位に昇りつめたことが報じられたことは、記憶に新しい。ラーメンは、中間層に留まらず、確実に米国で地歩を築いている。

全米における日本式のラーメン店のブームや成功は、先人の努力の積み上げと、ラーメン「文化」が過去半世紀にわたって徐々に受け入れられ、以前のような「へんてこりんな東洋のヌードル」に対する抵抗感が薄れていった過程と重なる。これは一朝一夕の出来事ではない。

現地化するラーメン文化

米国におけるラーメンの楽しみ方は、「正しい」日本式の食べ方だけでなく、麺にスープで味をしみこませて、汁気を切ってからサラダの一部として食べるなど、米国ならではの応用もある。現地の人が手を加える自由度があってこそ、外国の食べ物は普及する。

米国人でありながら、東京都世田谷区の芦花公園(ろかこうえん)でラーメン店「アイバンラーメン」を開店して成功させたユダヤ人のアイバン・オーキン氏は、現在ニューヨークで支店をオープンさせている。そのオーキン氏によると、米国でのラーメン店経営は、難しい面があるという。

まず現地では、麺に使う小麦粉の粒子が荒すぎて、歯触りがシコシコとした、日本のような麺が作れないのだという。ラーメン用の小麦粉を特注するそうだ。これは、米国ですき焼き用やしゃぶしゃぶ用の薄切り肉が手に入りにくいことと共通するものがある。また、スープ作りに欠かせない鶏の脂についても、米農務省の規制が厳しく、望むものが簡単に手に入らない。日本ではラーメン屋が大切に使う部位の脂が、米国では「使い道がない」として捨てられている。

だが、オーキン氏が最も苦労するのが、「米国人は、単純に、ラーメンをまだ知らない」ことなのだという。日本では、「ラーメンの命は麺」だということが老若男女問わず理解されているが、一般的な米国人はその「おいしい麵」の知識に欠けるため、「どのような麺をどのような汁に合わせれば一番おいしいか」「どのような具が一番合っているか」など、基本面から教えなければならないところに工夫が必要だそうだ。

また、多くの米国人が生理的に受け付けられないのが、「ズルズルと音を立てて麺をすする」という、日本式の食べ方である。「音を立てて食べるのは、下品だ」と、幼少時からきつく教え込まれてきた人々にとって、これがラーメン入門の難関となる。

米国で着実に市民権を得つつあるラーメンだが、日本のようにラーメン店回りをして、麺やスープにこだわるグルメな客が増えるようになるには、あと一世代の時間が必要なのかもしれない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)