中国,外交,日中関係,米中
(写真=solkanar/Shutterstock.com)

中国は捕獲した米国の無人潜水機を、米国へ返還した。明らかに扱いに苦慮していた。そのもやもやを米国へ直接ぶつけることはできず、国民向けの体裁もあって、日本へ向けた。中国は、菅官房長官の「中国は国際法に依拠し、国際社会への明確な説明が必要だ」とした発言を「日本政府はくちばしをはさむな」と非難した。

なぜこういうことになるのだろうか。

官製メディアの報道

12月20日の外交部記者会見で華報道官は、「日本は中米間の無人潜水機問題にくちばしをはさんだのではないか?」という質問に、「日本方はこの件に関係ないにもかかわらず、非常に神経質になっている」と答えた。

実は当局者の発言とはこれだけである。それを各メディア、自らの意図する記事に加工してはめ込んだ。内容はなくても見出しをみると、また日本はまた余計な事をと読者が思うよう仕向けている。

新華社系の参考消息網は、中国の無人潜水器捕獲は国際法違反ではない、周りで跳ね回る日本、と題してして各メディアの記事を引用しつつ報じた。そしてこの記事はニュースランキング1位になっている。

米国のマケイン上院議員は、中国は潜水機の技術情報を押さえるだろう。これは厳重な国際法違反だ。と述べた。同議員は上院軍事委員会の重鎮で米政界に影響力を持つ。中国が潜水機を返還しても、米国人の批判を押さえることは難しいと分析している。トランプ次期大統領の、そんなもの中国にくれてやれ、発言も載せている。

しかし記事は突如、南シナ海水域において中国が軍事施設を拡充しているのは、日本に起因しているとあらぬ方向へ向く。

そして最期に、国防部は無人潜水機を米国に返還することにした。と同時に米国の南シナ海偵察活動をけん責した。その根拠は制止危及海上航行安全非法行為条約第2条規定、並びに国連海洋法条約29条によるとした。国際司法裁判所の南シナ海裁定は“紙くず”でも、まだ守るべき国際法はあるようだ。

また華報道官は中米両国の利益のために、地区の平和のためにと繰り返し、極力米国を刺激しないよう気を使っている。

ネットメディアの報道

ネットメディアも扱いを決めかねていた。当初は、米国の無人潜水機捕獲に快哉を叫ぶニュースを載せた。フィリピン・ドゥテルテ大統領の反米姿勢と同列に並べ、米国の挑発だと非難する過激なものもあった。

しかしこれはすぐに削除される。その後は比較的穏健なニュースに変化していく。政府の姿勢がよくわからず、彼らもまた試行錯誤の中にあった。

政府自体が対応に戸惑っていたのだから当然である。まず奪取は誰の命令だったのか。南海艦隊司令部以下のレベル独断の可能性は高いとはいえ、真相はわからない。推測もタブーである。

それに外交部は中国では力のない役所である。これまでも軍の無謀の都度、申し開きをやらされている。今回も軍は余計なことを、と不快だったろう。その結果、関係のない日本がやり玉に上げられた。

アメリカファースト

国内では、中米2国間の「新型大国間関係」が機能していることになっている。ところがトランプ次期大統領の、1つの中国にこだわる必要があるのか?発言以降、米国というかトランプ次期大統領をけん制するニュース一色となった。軍事力を誇示するニュースも目立っている。

こうした中、計画を実行した人間は、褒められるものと勘違いしたかも知れない。しかし外交部報道官の発言を見れば明らかなように、それらはどれも本当は米国とは対立したくない、というサインに過ぎず、再考を促しているだけである。中国は日本以上のアメリカファーストなのだ。

結局、軍の行為は理解を得られず、中国全体をうっ血状態に導いただけで終わったようだ。日本はとんだとばっちりである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

【編集部のオススメ記事】
「信用経済」という新たな尺度 あなたの信用力はどれくらい?(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
会社で「食事」を手間なく、おいしく出す方法(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)