中国,汚職
(写真= RomanR /Shutterstock.com)

天津市第二中級人民法院は2月16日、最高人民法院・奚暁明前副院長に対する収賄事件の判決を下した。収賄罪により無期懲役。政治権利終身はく奪、個人財産全部没収、収賄による所得財物に追徴課税という厳しい内容だった。

奚暁明前副委員長は不服を申し立てず、控訴しなかった。

日本には最高裁判所副長官というポストはないが、長官につぐ重鎮の判事に相当するだろう。そんな人が無期懲役となれば、日本なら天地をひっくり返すような大騒ぎだろう。しかし中国の新聞報道は淡々としている。特段珍しいものではないからだ。なぜこのようなことになるのだろうか。

副院長の経歴

奚暁明前副委員長は1954年6月、江蘇省・常州市に生まれた。1972年~78年、高卒で瀋陽市和平区の公安警察に就職している。この間75年に共産党へ入党、78年吉林大学法律系に入学、82年法学学士を得る。大学入学は24歳と遅い。優秀だったため公安局の推薦を得たのであろう。82年卒業するとすぐに最高人民法院研究室書記員となる。ここも簡単に就職できる先ではなさそうだ。

85~93年まで最高人民法院研究室審判員という資格で、天津市河西区法院、中級法院、北京大学民法学専業研究生、北京大学博士号取得、英国ロンドン大学で研究、などを経験している。遅れてきた男だが、ここへきて完全にエリートコースに乗った。

さらに1993年から2005年にかけて、最高人民法院経済審判庭副庭長、民事審判第二庭庭長、審判委員会委員、副院長を務める。

ほとんど法曹界の頂上に到達したのだ。汚職認定されたのは1996年以降の期間である。職務上の権限を利用して一定の関係者たちに直接便宜を提供、または有利な条件を整備していた。そして関係する企業や組織、個人の裁判案件処理、企業の株式市場上場などに関し、さまざまな援助を与えていた。もちろん無償ではない。

こうした行為の見返りとして、本人または親族の受け取った財物の合計は、1億1459万6934元(18億3400万円)に上る。本人は「誠信と法治は相互関連している。どちらも欠けてはならない。」が口癖だったという。

判決からの教訓

天津市第二中級人民法院は、収賄罪の構成要件が成立すると認定した。奚暁明前副委員長に対する賄賂の受取りは、大部分親族が行っていた。本人は後になって知ったケースもあり、取り巻きの悪質だった部分は疑いない。

しかし本人は立件されると罪状を認め、可能な限り供述を行っている。判決では相手方弁護士による請託が、違法道路への起点となったと表現している。法廷は両サイドとも腐敗していると認めたわけである。

さらに判決はくみ取るべき教訓として、裁判官の“社交圏”に対する探索を強化する。不正当な交流が発覚した際には、徹底した防護措置をしなければならない。などを挙げている。奚暁明は長期にわたって民間の商事裁判を担当していたため、自ずと妻子をも含む利益圏が結成された。そして一家を挙げて犯罪の深淵に転落していった。

しかし一族で稼ぐファミリービジネスは中国そのものであり、とても防止しきれるものではない。

三権分立なき一権突出

筆者はかつて山東省・青島市人民法院副院長という人物と面識を得たことがある。出会った先は鍼灸院である。聞いてみると連日の接待攻勢で肝臓を壊し、体調を整えるため鍼灸院に通っていたのだ。酒を飲まない日はなかったという。開いた口がふさがらなかった。ファミリービジネスへの入口は大きく空いていた。期待される役人は例外なしに接待の対象なのである。

一応中国でも、司法、立法、行政の3権は分かれている。

しかしトータルコントロールしているのは共産党である。統治権が共産党にある以上、法治国家とは成り得ないのは当然である。今回の無期懲役判決は、ファミリービジネス集団と化した法曹界に対する一罰百戒を狙ったものだろう。しかし法曹界が自浄努力を見せたことにより、一党独裁の危うさを押し隠す効果もありそうだ。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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