シンカー:既存の主流経済学の理論と物価水準の財政理論(FTPL)は、物価現象を説明する方法である。既存の主流経済学の理論は金融政策を中心に物価現象とデフレ対処法を説明し、FTPLは財政政策を中心に説明する。既存の主流経済学もFTPLも、総供給はその他の要因(技術革新、人口動態、そして構造改革など)で決定されると考えるようだ。既存の主流経済学では、総需要が不足していても、それは極めて短期的な現象であり、金融政策を中心とした対応や市場経済の自律的な作用で短期間で修正されるとする。FTPLは、通貨価値の減価を予想する企業や家計の行動により、需要が前倒されることにより短期間で調整される。両者とも、総需要の不足が長期間存在することは前提になく、総需要の不足を放置しておくと総供給が総需要まで縮小してしまうというバランスの問題は、クルーグマン教授が主張しているマクロ政策議論と違い、理論の中ではそれほど重要視されないようだ

既存の主流経済学の理論では、物価は貨幣的現象だと考えることが多い。

政府の予算制約式は実質で考えられ、現在の実質負債は、将来の実質財政収支の現在価値に等しくなる。

物価は貨幣的現象として金融政策と市場経済の自律的な作用で動くと考えられるので、名目は必然的にバランスすると考えられ、それほど重要視されないようだ。

将来のどこかの時点で実質財政収支を黒字にしなければ、予算制約式は成立しない。

しかし、各国の財政収支は若干の赤字で安定している場合が多く、一般的に政府債務は完全に償還されず、ずっと借り換えされ残高が維持されている実態を説明することが難しい。

シムズ教授がマクロ政策議論に応用している物価水準の財政理論

シムズ教授がマクロ政策議論に応用している物価水準の財政理論(FTPL)は、現在の実質負債は、将来の実質財政余剰の現在価値に等しくなる。

この実質財政余剰には、財政収支に加え、シニョリッジ(通貨発行益)も含むところが違いだ。

物価は、現在の名目負債が、将来の名目財政余剰の現在価値に等しくなるように動く。

財政拡大のファイナンスとしてシニョリッジを使うということは、通貨価値の減価を意味する、またはそのような認識が経済主体に広がるため、物価には上昇圧力がかかる。

シニョリッジを使うことにより、財政収支が赤字で安定化することや、債務の完全償還がない実態も説明できる。

ただし、物価上昇率を0%(物価水準に変化なし)に安定させることはできず、物価は上昇基調(物価水準が上昇)となる。

実質的に財政拡大のファイナンスをインフレでしたことになる。

クルーグマン教授が主張しているマクロ政策議論

クルーグマン教授が主張しているマクロ政策議論は、総供給が総需要を上回っているデフレ状態なので、財政拡大で総需要を総供給まで押し上げデフレを止めるべきだと考える。

デフレを放置しておくと実質金利が上昇するため、投資が抑制され、いずれ総供給も縮小するリスクが生まれてしまうと考える。

総需要が総供給に追いつけば、物価上昇は強くなる。

財政を含めた需要管理政策と金融政策により物価コントロールは可能なため、名目GDP成長率と金利の関係を、名目政府債務のGDP比率が低下するよう維持し、財政を安定化することは可能であると考える。

財政拡大により総需要が総供給を大幅に上回らない限り、金利の上昇は限定的なため、財政の信認は維持できるとし、政府の予算制約式は重要視されないようだ。

そして、物価上昇が強くなり、名目政府債務のGDP比率が低下していれば、政府の予算制約の問題はないと考えるようだ。

政府が総需要を不足させない、更に中央銀行が緩和的な金融政策を長期間維持すれば、インフレ期待が上昇することなどにより実質金利は低く抑えられ、企業の投資などを活性化することができると考えるようだ。

FTPLは総供給は考慮に入らないか、または総供給は総需要といつも同じであるという既存の主流経済学の理論の考え方が前提にあるのだと考えられる。

それと既存の主流経済学のマクロ経済学のミクロ的基礎付けを意識し、政府の予算制約式から議論を展開するので、多くの経済学者に強い印象を与えたのだと考えられる。

マクロ政策議論と違うところは?

既存の主流経済学の理論とFTPLは、物価現象を説明する方法である。

既存の主流経済学の理論は金融政策を中心に物価現象とデフレ対処法を説明し、FTPLは財政政策を中心に説明する。

既存の主流経済学もFTPLも、総供給はその他の要因(技術革新、人口動態、そして構造改革など)で決定されると考えるようだ。

既存の主流経済学では、総需要が不足していても、それは極めて短期的な現象であり、金融政策を中心とした対応や市場経済の自律的な作用で短期間で修正されるとする。

FTPLは、通貨価値の減価を予想する企業や家計の行動により、需要が前倒されることにより短期間で調整される。

両者とも、総需要の不足が長期間存在することは前提になく、総需要の不足を放置しておくと総供給が総需要まで縮小してしまうというバランスの問題は、クルーグマン教授が主張しているマクロ政策議論と違い、理論の中ではそれほど重要視されないようだ。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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