シンカー:労働市場の改善と物価の上昇に合わせて、賃金のしっかりとした上昇がみられることが確認できる。アベノミクス以降のトレンドが、労働市場の改善と物価の上昇から想定される水準から下振れているということはないことも確認できる。今後、労働市場の改善と物価の上昇が更に強くなっていくにつれて、賃金の上昇も強くなり、景気回復の実感も生まれるだろう。

アベノミクスは、名目GDPを縮小から拡大トレンドに変え、水準は過去最高となった。

名目GDPの拡大はビジネスのパイの拡大を意味し、企業の経常利益の水準も過去最高となった。

有効求人倍率は1.43倍まで上昇し、戦後初めてすべての都道府県で1倍を上回った。

失業率は3.0%まで低下し、他の先進国では悪いことが多いが、日本では若年層の雇用環境も大きく改善している。

物価は下落から上昇トレンドに転じ、安倍首相は「もはやデフレではないという状況を創り出すことができた」と述べている。

一方で、賃金の上昇は小さく、物価が上昇トレンドであるから、家計は実質的に苦しくなっているという見方も多いようだ。

日本の雇用者の賃金を合計した総賃金も、少子高齢化などで縮小トレンドであったが、アベノミクスにより拡大トレンドに変化している。

総賃金は、雇用者数や労働時間の増加でも拡大するため、賃金が本当に上昇しているのかはあいまいだ。

よって、総賃金を、雇用者数と労働時間で割り引いて、1労働時間単位の賃金の上昇率を見る必要がある。

2016年の1労働時間単位の賃金は前年比1.2%と、3年連続で上昇していることが確認できる。

アベノミクスが始まった2013年から2016年まで、同0.0%、+0.5%、+1.1%、+1.2%と着実に改善が進んでいる。

そして、この1労働時間単位の賃金の前年同期比は、失業率とコアCPI(除く生鮮食品と消費税)でうまく説明できることがわかっている(X年からの四半期データ)。

1労働時間単位の賃金の前年同期比(%) = 4.76 - 1.07 失業率(1年先行、%) + 0.50 コアCPI(除く生鮮食品と消費税、前年同期比、半年先行、%)、R2=0.71

労働市場の改善と物価の上昇に合わせて、賃金のしっかりとした上昇がみられることが確認できる。

アベノミクス以降のトレンドが、労働市場の改善と物価の上昇から想定される水準から下振れているということはないことも確認できる。

今後、労働市場の改善と物価の上昇が更に強くなっていくにつれて、賃金の上昇も強くなり、景気回復の実感も生まれるだろう。

図)1労働時単位の賃金と、失業率と物価による推計値

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

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